2014年7月19日土曜日

狭義の適合性原則と、広義の適合性原則

狭義の適合性原則とは、一般的には、「どれだけ説明を尽くしても販売してはいけない」という状況を考えます。文言ではなく、状況だけを言えば、平成17年最高裁判決にあった「オプションの売り」というのは、それだけでは狭義の適合性違反にはならないと読むのでしょう。どれだけ説明を尽くされて、充分に内容を理解したとしても、それでもオプションを売るといった取引をしてはいけない人は市場から排除されるべきだからです。ただ、そのように適合性を理解すると、それに違反するような販売・勧誘は「相当ひどい」ことをやっていることになるので、実はそのような場にはなかなか遭遇しないのではないか、とも思います。

広義の適合性原則は、簡単に言えば「説明すりゃいいんじゃん」というコンセプトだと理解されるようですが、だとすると、説明義務との違いがほとんどないことになります。もちろん、一般論としての(つまり、金融商品販売法や消費者契約法で規定されているものとは異なる)民事上の説明義務がどこかに規定されているわけではなく、業法としての金融商品取引法に記載されている義務から派生するのか、あるいは、信義則上の義務と解釈するのでしょうけれど。

なので、いくら最高裁が「適合性の原則違反は不法行為になる」と言っていたとしても、実は、前者の意味での適合性の原則違反はほとんど見られず、後者の意味であれば結局説明義務違反であって、もしかすると「適合性原則違反だ!」とか主張しないほうが実はプラスなのかも、と思ったりもいたします。

仕組債は「ハイ・リスク、ハイ・リターン」ではない

金融理論的には、投資のリスクとは「発生しうるリターンのぶれ方」、投資のリターンは「発生しうるぶれ方のパターンを平均したときのリターン」となります。たとえば、100の投資をして、50%の確率で120、50%の確率で80になるという投資は、「発生しうるリターンのぶれ方」は比較的大きいのでリスクは高いですが、一方、リターンはマイナス20%とプラス20%の平均なので0となります。リターンがゼロということは、なにもしないのと同じです。

仕組債のセールスをする側では、上記のような商品性を捉えて「ハイ・リスク、ハイ・リターン」と表現することがあります。しかし、それは金融理論的には大きな間違いです。リターンは高くないからです。仮に、このような商品を「ハイ・リスク、ハイ・リターン」といって紹介し、かつ、それが金融の常識であるかのように勧誘しているとすると、それは虚偽の表明をしているということになります。また、事後的に、つまり、裁判の場でこのような商品性を「ハイ・リスク、ハイ・リターン」と説明する人がいるようですが、それも同じ理由で誤りです。

ちなみに、仕組債のリターン、つまり、平均的に期待できる投資収益は大きなマイナスです。