2010年10月28日木曜日

日銀の資産買い取り

 格付けをアテにするのは時代に逆行しているのでは?という揚げ足取りはさておき…。
 1年から2年の債券を購入することで、本当にリスク・プレミアムの縮小に寄与するのかは、正直、疑問と言わざるを得ないでしょう。トリプルBまで降りていることは評価すべきなのでしょうが、実際には、トリプルB格で1年から2年の債券となると、リスク・プレミアムがほとんどないか、もしくは、リスク・プレミアムがべらぼうに高い、つまり、格付けを市場が信じていない銘柄かのどちらかである可能性が高いのではないかと思います。
 やはり、本質的には日銀が別途ノンバンクを設立して、一律に中小企業に融資をするというのが、いちばん趣旨に沿っているんですよね。それができないのは日銀さんのせいではなくて、政府の問題だと思いますが…。

消費者金融ABS

 ムーディーズさんが、個人向け無担保融資ABSへの総量規制・武富士倒産への影響についてコメントを発表しています。折り返しに応じない例が増えているので、今後のデフォルト上昇に要注意というのが簡単なまとめになります。実際、武富士さんの会社更生手続き開始申立てによって、過払い、もしくは、過払いには至らなくても実際の元本はもっと小さいということに気付いた人たちは多いわけで、ABSにまったく影響がないというのはムシがいいはなしなのではと思う一方で、興味半分ならともかく、実際に、ABSの投資家に影響が出るような法律構成ができるのかどうか、それはそれで疑問だわいなと思ったりもします。
 実際、利息制限法を越える部分のおカネについては、信用度の分析上は見ていないだけであって、おカネに色はないわけで、実際には、ABSの投資家にも回っているはずです。おカネに色はないので、過払いで持ち出しになっていない限り大丈夫という話もあって、それはそれで正しいのですが、となると、実は、過払いが発生しない債務者が集団で元本引き直しを要求してくる方が怖いんですよね。
 結局、弁護士のかたがたもおカネのためにやっているわけで、単なる引き直し計算は手数料が稼げないので受任しないのでしょう。しかし、正義のためなら、そちらを手掛ける弁護士の人がいても面白いんですけどね。

2010年10月22日金曜日

銀行資産の証券化(米国)

 米国では銀行が破たんするとFDIC(連邦預金準備公社)が管財人として入っていくのですが、日本と違って「更生法」とか「再生法」とは別の枠で運営されるんですね。で、銀行が資産を証券化した場合に、果たしてFDICが否認をするかどうかがキーになります。
 最近、FDICが発表したセーフ・ハーバーのルールがあって、S&Pがそれを解説したのを読んでいたのですが、要するに:

1) 会計上の消滅の認識があって、証券化ルールにも合致 → 否認しない
2) 会計上の消滅の認識はあるが、証券化ルールに合致しない → 否認しにいく
3) 会計上の消滅の認識はないが、証券化ルールに合致 → 担保付債権者として保護
4) 会計上の消滅の認識はなく、証券化ルールに合致 → 単なる担保付債権者として扱う(保護しない)

ということのようです。証券化ルールにはドッド・フランク法で定められたリスク保持のほか、情報公開、個別資産レベルの情報管理といったものが含まれます。

2010年10月13日水曜日

不動産

 新生銀行の本店ビルはモルガン・スタンレーのファンドが所有していて、来年のなるとローンの期限が到来するそうですし、銀座のティファニー・ビルについては、既にゴールドマンのファンドが諦めたとFTに出ていますね。リファイナンスの怖さよりも「期間の短いローンは安全」という、金融の基本からは誤った認識を持ったローンが多いことが原因のようですが…。
 記事も「日本で不動産の投げ売り期待高まる」と書いてある一方で、実際には、銀行が競売しないし、市況は底打ち感が出ているので誰も投げ売りはしないかもという、内容的にはバランスのとれたものではあります。ま、どうなることやら…。

2010年10月9日土曜日

倒産の定義

 一般のかたがたは〝倒産〟って聞くと、会社がなくなってしまうと思うのでしょうね。でも、会社更生法や民事再生法が倒産手続きであることも一般用語としては正しいはずで、そうでない限り、帝国データバンクや東京商工リサーチの〝倒産速報〟も意味がないですよね。しかも、民事再生法のおかげで、最近の倒産はほとんどが民事再生であって、会社が簡単に破産はしないで、存続することが多いと思います。
 ま、倒産という言葉が刺激的なのは分かるので〝法的手続きの下で経営再建中〟とでも言うのでしょうか? でも倒産なんて、〝敗戦〟ぐらいの意味しかなくて、巨人が3位になってしまったとか、その手のレベルの話でしかないとも思いますが…。

2010年10月7日木曜日

ノーベル賞

 これだけノーベル賞受賞者を輩出している国なのに、その受賞者の方が「若者よ、海外に出ろ」とおっしゃるというのは、いったいどんな国なんでしょう。この国をよくするために、もっと、私たちみんなで真剣に考えたほうがいいですよね。
 金融的には、確かに、人口減少局面にある中で高度成長が見込めないのは分かるのですが、大人の国になるということは、若い国に資本を輸出する義務があると思うのです。中間業者の変な思惑で、為替で妙に遊ぶのではなく、そのような国の現地通貨建ての株式に正々堂々と胸を張って個人投資家が投資できるようなプラットフォームを作ることが、今、金融業界に求められていることなのではないでしょうか。
 もちろん、政治家に、もっとデフレ退治の重要性を分かってもらうことも必要なのですが…。

実質実効為替レート

 実質実効為替レートの議論のうち、貿易量で加重平均するというところは、なんとなかみなさんすぐに分かると思います。よく分からないのは〝実質〟つまりインフレ率の影響のところでしょう。
 日本と米国の2国しかないとして、1ドル=100円であったとします。1年後やはり1ドル=100円であったら、名目実効為替レートは1ドル=100円のままです。(いま、日本と米国しかないので、貿易相手は米国しかいません)。
 ここで、同じ時期に、日本が2%のデフレ(年間2%物価が下落)、米国が2%のインフレ(年間2%物価が上昇)したとしましょう。日本では、100円だったものが98円になります。一方、米国では1ドルだったものが1ドル2セントになります。その結果、インフレ率を加味すると、本来は1ドル=96円07銭になっていて、実質の為替レートは均衡します。円の購買力が上がっているからです。
 ところが、上で見たとおり、為替レートは1ドル=100円のままです。つまり、本来1ドル=96円07銭になっていなくてはならないのに1ドル=100円になっていますから、円は過小評価されているのです。指数化すれば、実質実効為替レートは100から96.07に下がっている(これは下がっているから円が弱くなっている)ことになるのです。
 何度か申し上げていますが、私は、政策目標はデフレ退治にすべきだと思います。日銀さんがこのことを声を大きくして言えないのであれば、政治家が言わなきゃいけないのではないでしょうか。もちろん、私が間違っている可能性はありますが、デフレを解決すれば、景気は自然によくなると思っているのは私だけではないはずです。

2010年10月6日水曜日

金利の変動

 たまたまなのですが、先月と今月とで長期・固定の住宅金利を比較する機会があり(って、自分で借りるわけではないのですが)、今月は先月と比較すると0.2%くらい住宅ローン金利上昇しているんですよね、長いほうは。ところが、昨日・今日でJGBの利回りは急低下…。借りる人は来月借りたいでしょうね。ま、今から申し込めば来月以降になるということなのでしょうけれど。
 近著(扶桑社さんの「家を買う時必ず!買う本」)にも書きましたが、変動金利で借りて、手前の金利が安い分、一所懸命貯金して内入れをする。これにますます最適な環境になってきたとも言えそうです。インフレ率が安定して1%になるまで、そして、瞬間風速では2%も許容するといいながら、ゼロ金利を継続すると日銀さんおっしゃっているわけで、そりゃ、変動金利型で借りてても、しばらくは金利あがりませんよね。ただ〝しばらくは〟という表現がポイントなのも確かです。将来の負担を避けるためには、仮に金利が上がりそうになくても、やっぱり内入れに励みましょう。

日銀さんの仕事ではないのでは

 昨日からいろいろ考えているのですが、日銀さんがご苦労なさって、おやりになろうとしていることは、本来的には財政政策の役割のような気がします。今日、不動産関連株が上がっているとか、REITがこれで活性化するとかという話は、結局一部の人の損失が先送りされる、あるいは、これまでたまたま我慢できた人が得をするということになって、なんか不公平感があるんですよね。
 私たちひとりひとりが消費をしない限り、景気なんてよくならないと思いますし、仮に日銀さんの政策が有効で〝商業用(賃貸用)〟あるいは事業会社が保有する不動産価格が上昇すれば、確かに究極的には国民にはプラスになるかもしれませんが、本当の意味で景気がよくなるというか、そういうのとは違うと思うのです。
 住宅ローンを減税や補助金で実質マイナス金利にする、あるいは、マイナス金利で公的金融機関が融資をするというのもひとつの手ですよね。あと、やはり逆消費税というか全品目エコポイント(といったら〝エコ〟の意味はないですが)で、消費に奨励金を出すとか…。財源ですか? それを考えると苦しいですよね。となると、反対方向の預金税・現金税になるのですが…。
 ま、結果として景気がよくなれば多少の歪みはやむを得ないと思うのかもしれません。いずれにせよ、日銀さんが思い切ったことをなさったのは確かなんですし。

資産価格の上昇

 それにしても、日銀さんが資産価格の上昇を意識するというのは、結構画期的ですよね。財政政策と金融政策とがかみ合っていないのが不安は不安ですが。
 たとえば、資産のリスク・プレミアムを下げるというのは、資産保有コストを下げるのと、マクロ的には同じというか、結局はアナウンスメント効果でしかない(日銀が日本中の不動産・株・住宅ローンをすべて買うわけにはいかない)ので、であれば、たとえば固定資産税の撤廃、株式保有に対する補助金、住宅ローン減税の大幅拡大で実質マイナス金利にする、というのと、実際の効果は同じわけです。
 ただ、よーく考えてみると、資産価格の上昇というのはインフレと同じわけで、インフレを起こしたいんですよということがポイントですよね。ですから、実質的なインフレ・ターゲット導入である1%というところの意味が大きいと思うのです。
 それにしても、資産価格が上昇するというのは資産を持っている人にとってはプラスですが、そうでない人にとってはあまり恩恵はなく、景気が好くなることによる間接的なメリットしかないんですよね。ま、しょうがないのかもしれませんが。ただ、であれば、やはりインフレを目標にすべきで、そうであれば、すくなくとも(消費者金融を含め)借金をしている人の実質的負担が減りますよね。

リスク・プレミアムへの働きかけ

 名目金利をこれ以上下げられないので(←私には異論がありますが、それはさておき)、リスク・プレミアムを下げることで景気を刺激したいというのは、分からない理屈ではありません。ただ、物品税同様、資源の偏在を招くおそれがあり、それを、選挙で選ばれていない中央銀行がどこまでやるのかという点については慎重さが欲しいとは思います。もちろん、なにもやらないのよりはいいという気持ちには変わりありませんが。
 たとえばREITを購入するという話ですが、ただでさえ私募ファンドの受け皿で市場実勢よりも高く購入している物件が多い可能性のあるREITの価格を上昇させようというのは、正直違和感があります。ABSの購入にしても、ABSを発行している人たちはいいですが、そうではない人たちの資金調達に波及するのかというと、私は懐疑的なのです。ETFの購入にしても同じで、ま、TOPIXや日経平均のETFであれば、ETF自体にはあまり恣意性はなかろうと思っていますが、じゃあ、非上場企業の株式に対するリスク・プレミアムはどうしてくれるの?という疑問は払拭できません。
 結局、完璧な答などないことはよく分かっていますし、カネを世の中に流したい(中央〝銀行〟ですから)という気持ちもよく分かりますが、リスク・プレミアムに働きかけるのであれば、J-REIT指数デリバティブの買い、TOPIXの先物買いのほか、なんらかの基準(おそらくは現在のバランス・シートの規模=資本金+借入金の額)に連動した一律の中小企業向け融資、などが目的にかなってるはずです。
 ま、私の思いつくことなど、当然日銀さんも分かっているでしょうが…。

金融政策

 日銀さんについては、失敗したときの批判が怖くてなにもなさっていないのではないかというのが私の個人的な感想だったので、その意味では、日銀さんとしては今回のは踏み込んだ政策なんだろうと思います。個別には言いたいことはいろいろありますし、日銀さんがご自身で思ってらっしゃるほど画期的だとは私は思わないのですが、「なにかをやらなくてはならない」という危機感があるのはいいことだと思います。
 今回、あまり画期的だとは言われていないけれども実は画期的ではないかと私が思っているのは、実質的にインフレ・ターゲットを導入したことでしょうか? 期待インフレ率が上がればその分実質金利が下がって景気刺激策になりますから、もっと「1%」という数字を表にだしてもいいんだと思いますよね。だって、物価上昇率が1%で名目ゼロ金利だったら、実質金利はマイナス1%ですから。個人的には(以前AERAのアンケートにもそう答えましたが)日銀当座の管理料を含め、固定資産税と同様の現金・預金税を導入すべきだと思いますが…。