2013年4月30日火曜日

財政赤字は「何を」ファイナンスしているのか

有名な財政赤字論文に計算間違いがあったからといって、その中心となるテーマが間違っているわけではないというのは当然のことであって、たとえば私自身は少なくともヨーロッパについては緊縮財政は間違っていると思いますし、日本はまだ緊縮財政にすべきではないと思っていますが、クラウディング・アウトを含め、財政赤字が多すぎるのは問題だということそのものには納得します。

WSJ誌にも同じような意味の意見が出ていて、結局、赤字そのものが問題なのではなく、赤字でなにをファイナンス(あるいは投資)しているかが重要だという話です。まさにそのとおりだと思います。財政赤字によって成長が買えるのであれば安いし、同意見によれば、日本やドイツを戦争でやっつけるのは投資としては正解であったということですが、社会保障費に回るのはいかがなものかと。

おそらく問題は2つあって、まず、社会保障費は、そうでないかぎり収入がゼロの人に向かうのであれば、そのほとんどが商品に回されるため、必ずしもムダなおカネの使いかたではないはずです。公務員の給料も同じことです。限界的な効果がどのくらいあるのかを計測するのはなかなか難しいですが。また、限界効用が逓減するのはどのような場合でも同じであって、仮に、当初は財政赤字のいわば成長ファイナンス効果はそれなりにあるのかもしれませんが、だんだん、「財政赤字」慣れを社会がしていくので、同じ10兆円の財政赤字の効果は減っていくのでしょう。

ただ、私自身は、外国から借りない限りは、国債=エクイティ説を採っているので、あまり心配しないことにしようと思っていますけれど。

格付けもビジネス

格付け会社は民間企業なので稼がなくてはいけませんし、競争もあります。証券化、特にCMBSの分野では、最近になって他社の格付け批判が結構見られるようになりましたが、フィッチは29日、『アップルがダブルAはないっしょ』というリリースを出してます。フィッチはアップルの格付けをしておらず、最近は「勝手格付け」とか流行らないのでしょうけれど、なんか面白いですね。もっと広まってもいいと思うのですが。

2013年4月29日月曜日

社債投資はオプションの売り

私自信はクレジット投資の専門家の末席を汚す立場にいるわけですが、債券とはそもそもオプションの売りであって、他のオプションの売り同様、相当に慎重に分析をした上でないと買うべきではないと思っています。昨今の低金利下、国債ですらそのオプション性はもはや無視できなくなっている(という趣旨のエッセーをそのうち旬刊経理情報にも発表します)のですが、そもそもデフォルト・リスクのオプションである社債というのは、投資適格だろうがトリプルAだろうが、あきらかにそうだと思っているのです。「個人が社債を買うべきではない」というとエキセントリックだと思われるので、慎重にという表現を用いますが、オプションの売りを個人がすべきだとは必ずしも思わないという点ではみなさん共感なさるのではないかとも思います。

で、創刊の頃は割と好きだったDIMEという雑誌があるのですが、そのWeb版でこんな記事を見つけました。別に個別の発行者に対する意見があるわけでは(必ずしも)ないのですが…。クレジット・リスクにさらされるのはたーけのやることだという趣旨がブラック・スワンに書いてありまして、それは一理ありますよね。

ヨーロッパのCLO

英銀ロイズと、中堅企業向けクレジット投資会社ICG(インターメディエイト・キャピタル)が大型のCLOを計画中という話がFT紙に出ていて、米国ではCLO大流行なのでヨーロッパでも金融危機前みたいに復活しないかしらん、というノリのようです。

ま、ICGは2010年8月にRBSから企業向け融資を買収、その後証券化していますから、驚くほどのこともないような気はいたしますが。

コミュニティ住宅(イギリス版)

イギリスでも購入版共同住宅が流行りつつあるという話がFT紙に出てました。理屈上のメリットは明らかで、庭とかいつも使うわけではありませんから、共同のほうがいいケースもありますし、不動産価値を高めるための植樹とかも、町内会としてやるという手もあるものの、実際に共有している場所であればそこを活用するというのも手ですよね。

ただ、日本でもそうでしたが、なかなかメインストリームにならないのは、日本では「財産」に対する個の意識は実は強いのでしょう。個の財産(もしくはlack thereofなのでしょうけれど)という基盤があって、その上での共同体意識というのは存在するのかもしれませんが、日本人の財産感覚からすると共有とか合有というのが馴染みにくいように思います。例外はマンションですが、結局、マンションの場合は建物1つに部屋がしきられているわけで、そこは割り切りやすいのでしょう。

国際商品価格と為替レート

 金融の世界では、ヘッジのためにデリバティブを用いることができるのはいわば常識です。特に、テキストに出てくるような大企業が相手で、相手が自らの財務ニーズを的確に把握している場合には、先方の悩みにデリバティブをぶつけてあげればいいわけです。

 また、「掘り起し」というのが営業上は大切になるわけですが、そこで効いてくるのは「要素」のヘッジです。たとえば、金価格というのは国際的にはドル建てで表示されますが、報道のとおり、円安によって円建のゴールド価格が上昇することはありますから、為替レートの影響も受けているわけです。

 国際価格が存在するものとしては、その他、たとえば天然ガスとかがあります。ここもとの円安でガソリンの価格が上昇していることになっているのは報道のとおりであって、天然ガスも同様に国際商品ですから、円安になれば日本の需要者にとっては価格が上昇する、なのでヘッジが必要であるというのは、金融側の人間からすると常識なわけです。

 ところが、実勢は必ずしもそうではありません。たとえば、日本に輸入されてくる天然ガスの価格というのは財務省貿易統計で容易に把握できる(把握は簡単ですが、データは月ごとに大量のものが出ているので、集計は大変です)のですが、ちょっと用事があって、ある5年間の通関価格(CIFベース)を日銀が発表している為替レートの月中平均と比較してみると(エクセルのLINEST関数ですね)、なんと、逆相関していることがわかりました。R2検定的にはそれほど強くないため、ほとんど相関していないという評価もできる(つまり、たとえば別の5年間を採ってみると全然違う傾きや切片が出てくる可能性が高い)のですが、それでも逆相関というのは驚きでした。

2013年4月27日土曜日

ジュディ・ガーランドとジャンク債

デルのファンドによるLBOが成功すると、LBOのLの部分(負債)がジャンク債やローンの形で市場に出てくるわけですが、投資家はそれを待ちきれないんだそうです。FT紙によれば、投資家は「ジュディ・ガーランドのコンサートを待っている気持ち」だそうで、幕が開いて、そこに歌手が本当に登場するかどうかドキドキしているという意味のようですが、もうひとつ上の方々の世代の人なのでちょっと分かりにくい比喩でした。

で、記事の内容はジュディ・ガーランドそのものよりも、この手の負債性商品が再度証券化されていて、その証券化されたものに投資家が群がっていることが問題なんちゃうの?ということです。私自身はクレジット投資の専門家の末席を汚す立場であり、いわゆるCLOには相当の自信がありますが、記事にあるとおり、そしておそらくは過去が証明しているように、CMBSには警戒が必要になってきたのかもしれませんね。

2013年4月26日金曜日

インサイダー取引と矜持

インサイダー取引は悪いことで、なぜかというと、皆が知恵を凝らして利益を上げようとしているのに、知恵ではなくて不正に取得した情報を使うからです。ズルはいけないという言いかたをすると、株式投資はバクチであるということにもつながりかねず、必ずしもそのような考えには賛成できないということになるでしょうか。

カナダの投資銀行家が、業務に関してすることができた「推測」で取引をして、米SECからはインサイダー取引だとされたものの、オンタリオ当局からは、規制業種の従業員が職務上得た知識を用いて利益を得たことは問題だがインサイダー取引とは認定しなかったという話がNYT紙に出ています。

ま、李下に冠を正さずというか、資本市場に極めて重要な役割を果たしていることが、株式市場に関わる人間には重要っていうことですよね。ちなみに、日本の証券会社のひとにそんな矜持を求めるつもりは私にはありませんが。

それにしてもPride and Prejudiceって、「自負と偏見」とか「高慢と偏見」とか訳しますが、明治・大正の小説には矜持に「プライド」っていうフリガナがふってあるのがあって、ふむふむと思ったりします。

2013年4月24日水曜日

今日の勉強

FTアルファビルはさまざまなネタに相当な専門家がコメントしているので、一応専門家の端くれでもある私の、そのなかでもさらに専門であるクレジット市場などについても勉強になることは多いのですが、投資の世界ではコモディティというのは立派なアセット・クラスでして、特に、ここもとゴールド価格が大きく動いていることもあり、TIPSがネガティブ利回りになっていることもあり、さらに、日本のリフレもありでインフレとコモディティの関係に注目したいと思っているところなので、コモディティ関係の記事は、時間のある限り読もうと思っています。

この原油スポット市場の話は、直接はインフレの話とは関係ないのですが、産油国の人達が原油を掘る理由は「カネ」であるという当たり前の理屈が突然よく分かったのはよかったです。彼らからすると、ロンドンで不動産買うのと同じくらいの期待リターンがなければ、わざわざ地べたを掘って原油を採るインセンティブはないんですよね。資本コストはただではないわけで、こんな当たり前のことに新聞読まなきゃ気付かないっというのも情けないんですけど。

デフレの輸出

いままであまり考えてなかったのですが、日本のリフレ政策というのは、国際マクロ的にはデフレの輸出/インフレの輸入であるというのが当然のようにFTアルファビルに出ていて、なるほどなとおもっています。金価格が下がっているというのは、日本はインフレ期待を高めようとしているところなのにどのように解釈すべきなんだろうと悩んでいたのですが、為替レートを通じて、日本のインフレが他の先進国のデフレになるというのは、最近の韓国の悩み等を考えるとふむふむという感が強いですね。

ま、これを自分の考えとしてしっくりさせるためにはもう少し時間が必要だというのが、大学生のときにちゃんと勉強をしてなかった罰なのはよくわかっているのですが…。

Post hoc ergo propter hoc

Austerity loses an article of faith - http://www.ft.com/cms/60b7a4ec-ab58-11e2-8c63-00144feabdc0.html

フランスとの戦争で国家の純債務がGDPの240%に達していたイギリスが、その後の産業革命で目覚ましい経済発展をしたというのがロゴフ=ラインハートへの批判には必ずしもならないようには思いますが、国家債務と低成長のどちらが原因なのという議論については、確かに財政のクラウディング・アウトの議論はあるのでしょうが、やはり低成長が先にあるというのが妥当な結論なように思います。

2013年4月23日火曜日

「格付けしないこと」を格付け会社が宣伝!

以前、ムーディーズが、他社が格付けしたCMBSについて、「自分たちだったら、こんな甘い格付けはしないよん」と言っていた件を紹介しましたが、その際に妙だったのは、S&Pの他の2つの格付け会社がクロールとモーニング・スターだったことで、通常は、S&P、ムーディーズ、フィッチのうち2つは格付けしていることが普通ですから、ちょっとびっくりでした。

と思っていたら、若干謎が解けたというか、4月22日付のフィッチのレポートで「大型債権・担保物件の案件に注意」という内容のものが出ているのですが、そこで、上記のモルガン・スタンレーのCMBSに触れています。やはり、スポンサーの望む格付けを付与するには信用補完水準が高くなりすぎて、先方の希望に合わなかったということなんだそうです。

S&P、クロール、モーニング・スターが付けた格付けを信じるのか、ムーディーズとフィッチが付けなかった格付けをどう評価するのか、といったあたり、そもそもの格付けの存在意義等も含め、なかなか面白い論点ですよね。

担保のリスク

"Markets Insight: Misuse of collateral creates systemic risk - FT.com" http://feedly.com/k/13RmiIA

リンクがフィードリーからなのはともかく、担保が別の種類のリスクを生むというのは、あらためて言われるまでもないと思いますが、たまにはこういうことをきちんと思い出させてくれる解説記事を書く人が必要なんでしょうね。担保による信用創造とか、担保の換金性の突然の枯渇など、バブルを知っている金融関係者からするといわずもがなですが、現在のようなレポとかプライム・ブローカレイジが発達し、市場価格があることが前提になっている担保で、かつ、転担保が容易だとなおさらですね。

金利スワップの訴訟(イギリス編)

FCA intervenes in RBS mis-selling case - http://www.ft.com/cms/a1cdda26-ab6e-11e2-ac71-00144feabdc0.html

金利スワップで『聞いてないよ』という話になって訴訟にまでなっているのは日本だけではないのですが、イギリスで金融機関側がいっ死んで買っている裁判の上級審で、イギリスの金融行動監視機構が中立的な立場から意見を述べようとしているそうです。日本で金融庁や消費者庁が同じことをやるようには思えない(私が無知なだけかもしれませんが)のでへっえーっていう感じですよね。

2013年4月22日月曜日

企業再生支援機構の支援先が…

企業再生支援機構が再生支援しても破綻することなんてあるんですね。ちょっとびっくりです。

やっぱり私はケインジアンなのかしら…

ピムコのグロス氏が、ヨーロッパの緊縮財政に警鐘を鳴らしたという記事がFT紙に出ていまして、そこでは、ロゴフ=ラインハート論文が最近いじめにあっていることも紹介されています。

エラい先生がたのお説を理論的背景もなしに批判するのは評論家ちっくで気がすすまないのですが、ヨーロッパとか日本とか見ていると、ケインズが正しいかどうかはともかくとして、景気の悪いときに緊縮財政とか、国家債務が云々とかっていうのは、あまり正しくない政策のような気がします。確かに、アメリカと違って原則として人口が高齢化し、やがて減っていくことが予想されるなかで怖いことは怖いのですが、その根本的な問題を直そうとするほうが社会政策としては健全なような気がしますし、そこはむしろ経済学の出番では必ずしもないのではという気もします。

ま、景気よくするには政府でもいいからカネ使わなきゃというケインズちっくな発想は、なかなか抜けないものというだけなのかもしれませんが。

銘柄選択に意味はない(なんて昔から言われていること)

 FT紙に「銘柄選択の意味はない、アセット・アロケーションこそが重要だ」という意味の記事が出ていて、これって昔からいろいろなところで言われていることなのでなにをいまさらという気がしますが、たまにはこのような経済紙がきちんと説明することはいいのかもしれません。論文の本体はこれで、ケンブリッジ大学のビジネス・スクールの教授と米サンディエゴ州立大学の教授が書いたものとのことです。

 私自身、投資信託とかの銘柄選択はまったく信じていないというか、銘柄選択でベンチマークに勝てるというのは、少なくともロング・バイアス(120/20とかも含め)の場合は都市伝説だと思っていますから、(僭越ながら)仲間がいて嬉しいです。


2013年4月21日日曜日

証券会社の敗訴(仕組債編)

日経の土曜日の朝刊に野村證券が仕組債訴訟で敗訴したという記事が出てましたが、これって、ニュース・バリュー、誰が判断なさったんですかね。証券会社が仕組債訴訟で敗訴するのはそれほど珍しい話ではなく、しかもこれ地裁レベルですからまだまだ先は長いわけで。

ま、最近は金融法務事情とか金融商事判例とかで金融機関側敗訴の判決が出なくなってますから、カウンターとしてはちょうどいいのかもしれませんね。

2013年4月20日土曜日

インパクトとしての格付け

 格付け屋さんの存在意義は、投資家がその格付けに意味があると思うか否かにあるわけですが、その意味では、独英米仏の格付けというのは結果としてあまり意味がないというか、確かに、将来的な不安が払拭できないという気持ちは分からなくはないものの、仮にこのあたりの国がトリプルAでないのだとすると、トリプルAでないことにどのような意味があるのかという問題を突き付けます。私自身は、米国と真剣に戦争をして勝てる国がないという意味で究極的には米国の信用度に疑問を持ってもしょうがないと思っていて、その範囲での頭の体操にどこまで意味があるのかとは思っています。

 一方、格付けというのもビジネスである以上、存在意義をアピールする必要があります。「安全だ」という評価をしていても存在意義のアピールにならないのはその意味では明らかであって、少しひねった見かたを表明しないと「お、なかなかヤルね」と思われないわけで、日本の格付けとかはさすがにちょっとヤバいという見かたは多いですからすでにそのカテゴリーを外れていますが、独英米仏あたりにはまだそのあたりのノベルティ・バリューというのは残っているということなのでしょう。その意味では、S&Pが米国を格下げしたみたいに、多くの人から疑義を呈されようと話題になること自体にも意味があると言えます。

 話題にされることが重要なのは、どの格付け屋さんも同じですが、S&Pとムーディーズはそうはいっても寡占状態にあるわけで、となると他の格付け屋さんということになります。特に、「大手3社」という括りかたをかろうじてされるフィッチの場合はなおさらです。最近、ムーディーズと意見が異なるという意味で話題になったクロールとかDBRSとかモーニング・スターとかもありますが、とりあえずフィッチが頭一つ抜けてはいるわけで。

 フィッチが金曜日にイギリスを格下げしていますが、このタイミングはなんなんですかね。サッチャー元首相が亡くなったタイミングと合わせたわけでもないのでしょうに。ま、サッチャー元首相については賛否両論がいまだにあるほどあの国の方向を変えた人だという評価であり、その意味では偉大な政治家だったのでしょうから、ふと思い出したっていうことなんですかね。

タクシーとハイヤー

 小説を読んでいると、昔は日本では単純作業の人件費が安かったことが窺え、みな平気でお手伝いさん(家政婦? メイド?)を雇っていたし、割とカジュアルに人力車に乗っていたみたいですね。もっとも、昔の小説の主人公はたいていの場合は当時としてはめずらしい大学(しかも「東京」がつかない時代の帝国大学だったりします)卒業なわけですから、中級ですらないのでしょうけれど。

 というのとはあまり関係なく、イギリスのミニ・キャブの会社をカーライルが買収するらしく、そう言えば、日本ってハイヤーを(少なくともここ数十年は)あまり使わない国だなーと思いました。メーターで走るタクシーは多いですが、ハイヤーって私たち一般人はほとんど使わないですよね。

 ミニ・キャブは「キャブ」という名前が付いてますが実際にはハイヤーで、タクシーは規制が厳しいもののミニ・キャブは規制が緩いらしいです。アメリカはタクシーが州を超えないという事情もあって、たとえばニューヨーク州からニュージャージー州に行くにはハイヤーを使わざるをえないようですが、アメリカでもハイヤーは割と普通に見られますよね。日本でなぜハイヤーがあまり流行らないのかしら、と思ったニュースでした。

 そういえば、私の祖母はタクシーのことをハイヤーと言っていましたが、昔はもう少し一般的だったんですかね。生きていれば100歳近いですが。

2013年4月18日木曜日

文豪とデフレ

 子供(といっても中学・高校生)の頃に読んだ文学作品の印象というのは、大人になってから読むと随分変わるものです。

 こちらが人生経験を積んだ分、味わえるようになったというのは格好がいいのですが、実際は、年齢を重ねた分、主人公に感情移入できる幅が広がったに過ぎないようにも思います。実際、別に山椒大夫を読んだところで昔より感動するわけではありませんし、三四郎、それから、こころ、などといった原則として独身の男性が主人公になっている話についても深みを感じるわけではありませんが、行人とかは結婚してみると感情移入しやすいし、彼岸過迄とかも純粋培養されていたときに読んだのとは違う深みを感じます(三四郎などは純粋培養されていても感情移入しやすい)。

 舞姫は、子供のときに読んだのよりは嫌悪感が少なく、社会人になってみて人に認められないと飯が食っていけないという現実が分かるとそれはそれでしょうがないのかなという気もしています。真珠夫人とか貞操問答とかは子供のときには読みませんでしたが、大人どころか自分も中年になってみると、ふむふむと思うところも多く、子供の頃すっごく読後感の悪かった布団も、読後感の悪さは相変わらずなものの、主人公の悲哀は当然子供には分からないわけで、深みは感じられます。人間失格も、子供のときに読み始めて、気分が悪くなってやめてしまったのですが、中年になって読んでみると、自分ではとてもああはならないしなれないものの、感情移入できるだけの人生経験はしたんだなぁーと思います。

 逆に、「走れメロス」とか「恩讐の彼方に」とかは、子供だましというか、現実の社会をしらない子供の頃に読むと感動するのは分かるけれども、世の中の汚いことをいろいろと知ってしまうと、空虚な感じもします。もちろん、無償の友愛とかは存在するのでしょうけれど、別にそんな話をあんまり時間かけて読みたいともおもわないなぁーなどと思います。

 でデフレの話ですが、黒田日銀の金融政策によって国債利回りが乱高下し、かつ、実は国債利回りが下がっていないので実質金利が下がっているかどうか目に見えない(国債利回りは名目金利ですし、実質金利のもうひとつの要素である予想インフレ率は目に見えない)ということもあり、懐疑的な、あるいは、攻撃的な論調も引き続き見られます。私は、これまでのデフレに比べれば、日本が過去に経験した程度であれば狂乱インフレのほうがましだと思いますし、あのレーガン政権化の金利20%というのだって、別にそれによってアメリカ経済が崩壊したわけではありませんから、別にいいじゃんと思っています。つまるところ、根本のところで、デフレというのは(前からなんどもいってますが)安定した収入と貯金がある人にとっては望ましい社会状態なので、その人達がリフレ政策を攻撃してもなんの説得力もないのです。結局、人というのは経験したからしか感覚を持ちえないというか、安定した収入がある人にとっては、デフレというのがどれだけ社会を蝕んでいるのかわからないんでしょうね。

 経験しないと分からないというのが、文豪の作品と経済評論の共通点というのがオチでした。

2013年4月17日水曜日

年商100億円…

年商100億円って、非上場・未上場企業の中では大きなほうの部類で、というかオーナーが持株放出するつもりがあって、手間を厭わなければ、上場しても不思議ではない規模ですよね。不思議なことに(実際に不思議かどうかは分かりませんが、でも本来脈絡がないので)、非上場・未上場企業の場合、年商と総資産はほぼ一致していまして、総資産100億円というのも相当な規模なのが容易に窺えます。

で、そんな印刷屋さんが民事再生を申し立てたという話が帝国データバンク東京商工リサーチの両方にのってまして、円滑化明けで金融機関が見捨てたというストーリーのようですが、いくら銀行でもそんなエゲつないことするのかしらん、と思いました。実際はどうなんでしょうね。

指標金利

IOSCOが、指標金利のあり方についての公開草案を発表してます。要は、ちゃんとした実際の取引に基づいて指標金利を算定しようよということで、たとえばLiborとはなにかということを真剣に考えると当然のようにも思います。

投資信託の元本補填

昨日、金融商品取引法の改正案が国会に提出されてますが、インサイダー取引規制の強化や年金の監督強化は(泥縄ではあるものの)目立つ一方、MRFの元本補填をしてもよいことになるというのが(あまり報道の価値はないのでしょうが)びっくりしました。今後、「投資信託には元本保証はない」という声明は間違いとは言いにくくなりますね。

デフレと物価目標

How central banks beat deflation - http://www.ft.com/cms/s/0/15d1efc6-a4f2-11e2-a94c-00144feabdc0.html

日本の話ではないのですが、各国でデフレスパイラルが起きていないのは名目賃金の下方硬直性という要因もあるものの、各国のインフレ・ターゲットが予想インフレ率の適切な形勢に寄与したからではないか、という議論。

で、もっとインフレになってもまだまだ大丈夫よんというのがひとつの結論で、私はアメリカについては懐疑的ですが、日本については相当大丈夫なような気がしています。ま、狂乱物価のほうがこれまでのデフレよかましだと思っている私なので、話半分でしょうけれど。

2013年4月16日火曜日

VaRとJGB

日銀さんの政策によって、国債価格が激しく変動し続けていることは一部報道の通りなのですが、それによって、銀行のVaRモデルが大変なことになっているようです。VaRは基本的にはヒストリカル・ボラティリティを用いているモデルなので、値動きが激しくなるとその分資産保有のリスクが高くなるため、VaRで必要自己資本やポジション(持ち高)の制限をしている金融機関(主として大銀行)はボラティリティが上昇すると資産を売却しなくてはならないわけです。当然、そうなるとさらに実際のボラティリティも上昇して、ますます自分の首を絞めることになるわけです。

という話がFT紙に出ていて、それはそれでごもっともでして。実際、現場の混乱はたいへんみたいですよね。

デフレと既得権益

デフレというのは、功なり名を遂げた人にとっては、望ましい現象です。安定した収入がある人にとっては、物価は上がらないほうがいいし、貯蓄があればデフレの進展によって購買力は増える一方です。予見性というのも保守的になりがちなこの手の人達には快適です。

一方、デフレは発展とか明るい未来とは一般的には併存しないので、これからの世代、あるいは苦しい生活をしている人達には苦痛でしかありません。名目賃金が下がることで意欲が削がれ、社会全体の生産性も下がります。

安倍政権の経済政策に対する評価は、細かな技術論を別にすると、結局のところ、安定した収入を得ていて将来が明るくなくてもいい人達には味方するのか、次代を担う人達の活力を換気したいのかの差と考えればいいでしょう。過去20年間ははからずもデフレによって社会がどうなるかを実地に観察する機会になりましたが、あまりいい経験ではなかったように思います。

今日の日経の経済教室を見て、デフレは錯覚であって問題視する必要はそもそもなかったという評価は、日銀の政策の技術論の当否以上に驚きました。

2013年4月15日月曜日

危険と見返りとの関係 → 「株しかない!」という人も

リスクには見返りがないといけませんが、その考えかたは複雑です。ただ、値上がり・利益は限定的で、値下がり・損失は莫大という投資対象は、基本的にはオプションの売りなので充分な注意が必要です。もっとも注意をしたからいいわけではなく、「ブラック・スワン」リスクを考えると、世の中に安全なものなどあるのかという観点も常に必要です。

というところから考えると、たとえば日本の国債とかもはや買うべきではないという水準に近付いているのかもしれません。利回り0.6%がゼロになる確率と1.2%になる確率とが同じだとすると、利回りが1.2%になったらさらにどこまで上がるか分かりませんが、逆にゼロ未満にはならないでしょうから、オプションの売りになっているわけです。途中で売却したときの損とか含み損失とかを考えると、現金で持っているほうがましなのではとも思いますし、特に最近のように債券価格のボラティリティが上がってくるとなおさらです。

資産運用を生業にしている人たちも、結局は危険とその見返りという世界に生きているわけで、「やっぱり株だよ」という話をピクテの最高投資責任者がしているという話がWSJ紙に出ています。

金(ゴールド)とインフレ

インフレというのは、モノの価値がどんどん上がっていくことですが、これは、ウラを返せばおカネの価値がどんどん下がっていくことです。モノの代表とされるのは金(ゴールド)ですが、ゴールドそのものは、人類が宝飾品として、あるいは何となく(他人が欲しがるのではないかと思って)持っていたいという不思議な特徴を有していますが、何の役にもたたないという点で普通のモノとは異なっていて、なのでなおさらおカネとの交換比率を計測する上では重要なのです。

もっとも、ここでいう「おカネ」とは昔は英ポンドであり、現在は米ドルです。つまり、ゴールドが計測しようとしているおカネの価値とは米ドルなわけです。なので、ゴールドの価値が上がるというのは、モノの価値との対比で米ドルが下がっていることを意味しますが、米ドルの価値が下がっているというのであれば米ドル安になりますから、たとえば円高になったりするわけです。なので、一般的には、円建てのゴールド価格はドル建てほど激しく動きません。なぜなら、ゴールド高はドル安であり、ドル安は円高なので、結局、「ドル建てのゴールド価格×ドル・円の為替レート」でしかない円建てのゴールド価格は影響が打ち消し合うのです。

なので、日本のインフレ懸念と円建ゴールド価格とは直接には関係しません。もちろん、日本のインフレ懸念が円安になれば、ドル高になりますから、ドル建てのゴールド価格は上昇しなくても為替レートの影響だけで円建ゴールド価格は上がることになりますが。

ということを、ゴールドだけではなくシルバーの価格も下がっているという記事を見て、ふと思いました。

「内需拡大」という言葉が昔流行ったのを若い人は知らないんでしょうね

アメリカと違い、日本の景気を好くするためには輸出をしなくてはならず、そのためには円安が必要だというのは、結構よくある議論です。報道されているとおり、米財務諸の半期為替報告書で:


We will continue to press Japan to adhere to the commitments agreed to in the G-7 and G-20, to remain oriented towards meeting respective domestic objectives using domestic instruments and to refrain from competitive devaluation and targeting its exchange rate for competitive purposes.

とか言われて、要するに、通貨切り下げを利用することは許さないよん!という話なのですが、そうは言っても日本の景気が好くなってほしいのも確かでしょうし、難しいところですよね。日銀黒田総裁も12日の講演で:

「適切な財政政策や成長戦略を通じて経済の成長力が高まれば、当然のことながら、その国の通貨は逆に上昇する可能性もある」

とおっしゃっていて、ま、そういうことなんでしょうね。一気に97円台というのも、それはそれですごいなぁーと思いますが、最近、日銀の政策およびその効果が読みにくくて、市場のボラティリティが上がっているような気もします。

日銀の政策によって流動性が大量に供給されるものの、そんなにたくさん国内に資産はないぞというので海外の資産も買われているというのは指摘されていますが、FT紙にまたそんな話が出ていました。「市場が壊れていく!!!」という叫びでもあるわけですが…。

ユーロの構造的問題について

The riddle of a currency with many values - http://www.ft.com/cms/67f9afde-a2c5-11e2-bd45-00144feabdc0.html

欧州中銀の調査で、スペインやキプロスの家計がドイツの家計よりも資産持ちなんだそうです。これは統計上のあやというか、本来だったら為替レートの変化で調整されるべきところがそうなっていない証拠なのでは?というのがポイントですね。これを見る限り、そのうちユーロ離脱者が出るんでしょう、という結論には賛成ですかね。

ECBはすぐには認めなかろうがキプロスの通貨管理は結局おなじことだわな、というのもそのとおりですかね。

従業員満足度

FT紙のルーシー・ケラウェイ氏のコラムに、職場に満足している従業員は生産性が低いという趣旨の話が出てました。確かに、考えてみると、文句ばっかり言っているという意味ではなく、ある程度批判的に業務プロセスを観察できる人でないと、真に生産性の高い仕事はできないんだろうなと思いますよね。

問題は、たとえば軍隊のような組織の場合、現場の個人が批判的だったりシニカルだったりしたら困ることです。ま、軍隊みたいな組織は現代の知識産業にはそぐわないということに気づかないことそのものが問題なのでしょうけれど。

2013年4月14日日曜日

黒田日銀とボルカー氏 (相続はインフレ対策?)

 FT紙のジリアン・テット氏のコラムに「中央銀行の役割は通貨価値の維持である」というボルカー元連邦準備制度理事会議長のコメントが紹介されています。中央銀行があまりにいろいろなことをやり始めると、政治の問題として、政治家や国民が中央銀行に過度な期待をするようになり、そのことは極めて危険であるとのことで、期待が過度かどうかはともかくとして、現在の日本で日銀にマジックを期待しているような(そして、逆に政府の役割はほとんどないかのようなフリをしているように政権側が見える)事態は決していいことではないというのです。

 ボルカー氏自身はレーガン政権下でのインフレ退治に大変な思いをしたわけで、「ちょっとばかしのインフレ」が本当に実現可能かどうか懐疑的なのも当然のように思います。テット氏によれば、黒田総裁はリスクは充分に認識しているとのことですが、私的には、そもそも「そんな簡単にはインフレにならない」と思っていて、資産インフレはともかく、実体経済へのインフレはまだ先なんだろうと感じています。ということは、やはり借金して不動産買うのが得策なんですかね? ま、親御さんが不動産持ってて相続を期待できる人には、特になにもしなくていいというアドバイスも有効なように思いますが。

小さな親切とリスク管理

 自分に子供がいたら、街で知らない人に声を掛けられたら無視しろというように教えるかもしれません。子供が女の子だったらなおさらでしょう。

 一方、たとえば困っている人がいたら助けて上げましょうというのは、人間の美徳なのでしょうし、子供がいればそのようにも教えるでしょう。実際、たとえば電車でお年寄りに席を譲るというのは、やはり自分に子供がいればそういうふうに育ってほしいし、自分と子供が一緒に座っていて、立っているお年寄りを見つけるなど実践できる場があれば、率先して範となるようにし、あるいは、子供をけしかけて声を掛けさせ、席を譲らせるでしょう。そのときに「いや、私は(席を譲ってもらうほどの)年寄りではありません」といって子供の好意を受けない人がいると、その子供は二度と席を譲らなくなるかもしれません。

 同じことは、明らかに道に迷っている人にも言えるでしょう。なるほど、その人達の親御さんからすると、自分たちの子供が知らない人から声を掛けられるのは心配なわけで、それだったら路頭に迷え(あるいはとにかく交番・派出所を見つけろ)という話なのでしょうけれど、その一方で、自分たちの子供が街で他人に親切にして、警戒されて「あっち行け」みたいな態度をとられ、その挙句、他人に親切にしない子供になってしまったらどうするんだろうという配慮が欠けているような気がします。

 という事を考えているときに、知人のディーラーの話をふと思い出しました。知人は、利益を上げると多少は褒めてもらえるものの、損をするとひどく叱責されるそうで、しかし、ポジションを取らないとそれはそれで怒られるんだそうです。仮にポジションを取らせてそこから利益を挙げさせたいのだとすると、他所の損で叱責するのはおかしいのですが、そういうことに気が回らないんですね。そのような管理者は、自分が街で親切心を出したところ、変質者扱いをされたらどれだけ気分が悪くなるかを考えてみるべきだと思うのですが、どうでしょう?

2013年4月10日水曜日

金融政策の限界

Japan’s unfinished policy revolution - http://www.ft.com/cms/2d7cc812-a079-11e2-88b6-00144feabdc0.html

基本的にはいちいち賛成ですね。日銀にできることは多いけれども限定的で、政府側にもアクションが要求されると。日本企業の投資は無駄だという指摘も辛辣ですが、あたっていますよね。消費税引き上げをやめて、企業の留保金に課税しろというのは、逆消費税を提唱する私の持論とも一致します。どうせできないでしょ(だからダメだよ)という結論には、サッチャー氏が亡くなったばかりということを割り引いてもちょっと「自分たち(イギリス)はできたけどね」という優越感もあるのでしょうけれど。

2013年4月9日火曜日

リフレと株

Days of inflation targeting are numbered - http://www.ft.com/cms/5e62d5d4-9d0e-11e2-88e9-00144feabdc0.html 歴史的に、インフレ目標はインフレ抑制のためにあるわけですが、それが成功している間は資産を持たずレバレッジの高い業種が好まれ、リフレになると逆という話です。インフレ抑制は、結局のところ人件費の抑制と実質金利の高さであるというのは、政策としてでなく現象として日本で見られたデフレの説明でもあるわけですが…。人件費が下がると資本の相対的価値が上がるため、資本の厚い会社は不利だというわけです。なるほどという感じですね。資本と労働のコストというのは経済学ちっくでちょっと頭痛しますけど。

日本のインフレ目標はリフレなので、結論は、資本ヘビーな会社がいいというのが翻訳になります。不動産株やREITが上昇している日本の状況にぴったりですね。

利回りはどこ? (日本の投資家編)

Japan’s yield hunters seek European debt - http://www.ft.com/cms/b5a2046e-a042-11e2-a6e1-00144feabdc0.html

日本人投資家が投資先を求めていて、ヨーロッパの非中核国の債券の利回りが下がっているとか。クレジット・カーブ(格付け・年限とも)のフラット化も進みそうですよね。こういう局面でも、クレジット・トレーディングはそれなりに面白いはずなんですけどね。

ボラティリティとリスク・リバーサル

円だけが激しくインプライド・ボラティリティが上昇してますね。インプライドなので、現在の値動きではなく、将来の値動き(不確実性)を反映しているというのが理屈で、今後のドル円相場の読みにくさを反映しているのでしょう。リスク・リバーサルでもコール優勢がさらに進んでいて、この変動も凄まじいのですが、こちらは市場の円安への予想の偏り方を示していると判断するのでしょう。

日本時間で動くのであれば100円越えまでいって、海外で利食いが入るという展開でしょうか。

2013年4月8日月曜日

裁判・賠償金投資ファンド

民事訴訟の多くは損害賠償を求めて提起されるわけで、確かに民法でも強制履行が認められているものの、多くの場合は価値をお金に換えられるものはお金に換えた上で、その金額を寄越せという裁判が多いのではないでしょうか。裁判を起こすことはそれほど難しいことではありませんが、裁判を起こされると弁護士を雇ったりしなくてはなりませんし、手間暇時間がかかることになります。

裁判・賠償金ファンドの事業はいぜんからあり、多くの場合は、賠償金を請求する原告が必要とするお金を提供する代償として、勝訴に際して得られる賠償金の一部を受け取ります。NYT紙のディール・ブック欄に、米国で大規模な投資ファンドが組成され、すでに投資を開始したという話が出ていたので、紹介しておきたくなりました。クラス・アクションは手掛けず、企業間訴訟に特化しているというのが特徴のようです。クラス・アクションはあたるとデカいですが、手間かかるし、成功報酬目当てに勝てなくてもとりあえず訴えるという弁護士が多いということが背景にあるように想像します。

日本ではどうなんでしょう。融資というのは機能するでしょうかね。あと、成功報酬で費用も手弁当でやっている弁護士さんがいれば、ファンドもありなのかもしれませんが、実際にはあまり多くないように思います。

無リスク資産

FT紙に「無リスク資産はなにか」という質問のほかに「無リスク資産が消滅するという事態が起こりうるのか」という質問も重要なのではという意見が出てます。格付け的には、トリプルAが「ほぼほぼデフォルトしない」というのと同義なわけですが、英米仏が次々とトリプルAを失い、日本などとうにトリプルAでないわけですから、これらの質問には一定の意味があります。

もちろん、「国はデフォルトしない」という考えもあり、その理由は、お札さえ刷れば借金は常に返せるわけで、本質的なリスクはインフレもしくは通貨の価値(両者は結局はおなじことですが)の崩壊にあるからです。日本のように債権者がほぼ自国民であればインフレ、海外の債権者が増えると為替レートの破滅的な下落という形で実質的なデフォルトになるというわけです。

ま、ユーロ圏以外はそんな心配は遠そうだという内容には私も賛成ですが、日本のことを考えると、デフォルトが考えられないとするのは早計でしょう。ただ、日本の場合は国債保有者がほぼ日本人なのでデフォルトは増税と同じ意味しか持ちませんから、あまり議論をしてもしょうがないのでしょうけれど。

結局、国の力は国民の勤勉さと労働力としての国民の質であり、まだ日本については安心していいのかも、と思ったりもしています。

こんなことがJPですら起こるのだとしたら

ロンドン鯨の件についてはFT紙のアルファビル・ブログが相当長期間いろいろと書いているのですが、最新のもなかなか面白かったです。タイトルは「リスク限度は破られるためにある」というもので、鯨のリスク・リミットは「破ってはいけない」ものではなく、仮に近付いたり破られたりしたら、その時点で「みんなで話あおうね」というものだったんだそうです。子供の小遣いみたいなもんですね。

なんども同じようなことを書くようななのは私も同じなのですが、リスク管理というのは、管理する側・される側ともに人間としてのモラルというか、勤務先を守ろうという意味での信念が必要なわけで、それがない限り、どんな制度も画餅に過ぎないんですね。ところが、多くの営利組織では、そのようなモラルを持った人間が往々にして疎んじられる傾向がありますから、そりゃ、鯨みたいな事件は常に起きるわけです。

ハイパワード・マネー

マネタリーベースって、私が学生時代に習ったハイパワード・マネーですが、ま、量的緩和の一種なんでしょうね。市場の注目は国債、ETF、REITといった資産購入で、要は、期待インフレ率上げによる実質金利下げと、資産インフレを通じた実体インフレの実現を狙っているわけですが。

それにしても、日銀の覚悟は立派だと思いますが、政府の責任も忘れちゃいけませんよね。任命責任だけで逃げてもらっては困ります。

2013年4月7日日曜日

リスク・リバーサルの乱高下

今、市場関係者で「乱高下」という言葉を使うと、どうしたって金曜日の国債の動きのことを思ってしまうわけで、あれは記憶のある中では史上初めてというか、凄まじかったです。それはともかく、最近、ドル円の為替のオプションでリスク・リバーサルが激しく動いていることは、あまり注目されていないのですが、原因がよく分からず、結構不思議に思っています。リスク・リバーサルというのは、単純にいうとドル円のプットとコールのどちらの買い手が多いかを示す指標でして、日本は構造的に輸出国ですからドル安が怖く、そのため、ドルを売る権利であるドル・プット優勢の時期が長く続いていたのですが、安倍さんが自民党総裁になったころからドル・コール優勢に変化しました。国としては引き続き輸出国なのでしょうが、相場の参加者としては円安リスクを意識し始めたというわけです。

ところが、先月の半ば頃少し円高になったあたりからリスク・リバーサルが逆転して、プット優勢に変わりました。後知恵なのですが、若干とはいえ円高になったことで、市場では円安傾向の修正と判断され、円高ヘッジをしたい人が増えたということなのでしょう。しかし、先週あたりからこれがまた逆転していて、再度コール優勢になっているのです。木・金の国債の動きと関係あるわけでは必ずしもなく、それ以前からなので日銀さんとも直接関係ないような気もしていまして、正直、頭を抱えています。

ことほどさようにオプションというのはとっても厄介なわけで、オプションを組み合わせ商品とか、ちゃんと説明しようとすると相当大変なのです。説明すべきなのかどうかという点については、金利スワップについての最高裁判決を見る限りよくわからなくなってきたのも事実ですけれど。

2013年4月6日土曜日

マイナス実質金利

結局のところ、国債利回りを抑えつつ予想インフレ率を上げるということは、実質金利を強烈にネガティブにしようとしているわけです、日銀さんは。これまではデフレだったのでゼロ金利でも実質金利はプラスだったからみんながお金を使わなかったわけですが、これで実質金利がマイナスになっていけば、お金貯めとくのがあほらしくなって、消費に回ることが期待できますよね。なかなか経済学的な素養を持っていない人(あるいは持っているのに素人をバカにして説明しようとしない人)達が無視しがちだから困るのですが、日銀の政策は資産インフレを通じて実体インフレ期待を作り出し、かつ、インフレだけではなくて実質金利をいじることで強烈に消費に働きかけようとしているとまとめることができようかと思います。

日銀ができないことというのは、どれだけリスクに直接働きかけても、それはマクロの話であって、ミクロのレベルではないということですよね。言い換えると、中小企業がカネを借りられる環境にならないといけないんじゃないのという質問に対して、どのように答えるかなんだと思います。おそらくは、インフレ(=デフレ解消)→景気回復→全般的な信用度回復→中小企業の業績好転、ということを考えていて、直接、ミクロの信用度に働きかける努力はしないというのが現状の答なのでしょうし、決して、この問題を無視していいと思っているわけではなくて当面は手当てをしないというだけなのだとおもっていますが。

もっとも、中小企業CLOを日銀がガンガン買いますよ!とか言われると、それはそれでちょっとという気もしますから、このあたりが丁度いいのかもしれませんね。ミクロに働きかけると、ロクなことがないというのは歴史が証明しているような気もしますし。

金融リスク管理と「ヒューマン・ファクター」

金融リスクの管理は、スパイと同じで「ヒューマン・ファクター」が大事だよねという話がNYT紙の「ディール・ブック」欄に出てました。ロンドン鯨の話もそうですが、どれだけモデルが進化してもモデルはモデルでしかないわけで、最終的には人間が判断するところというのは多いのですが、人間というのは得てして自分の得意分野(「理解できる分野」と言ってもいいでしょう)にはとことんこだわるものの、理解できない分野については無視しがちです。これは人間の特徴としてしょうがないのですが、一方で、「自分には理解できないリスクもあるんだ」ということを知った上で、そのリスクを管理しようとするかしないかで、リスク管理能力は随分と変わってくるんだということですよね。

これは市場リスクだけではなくて、「審査」と呼ばれる(純粋な意味での)信用リスクでも同じです。妙なこだわりを持つ奴ほど偏狭で、結果として莫大なリスクを積み上げていることに気付かないことが多いのです。特定の分野で大量の不良債権を出すような金融機関っていうのは、そういう気質が蔓延しているっていうことなんですよね。

流動性プレミアム

必要なときに必要なだけ、損をせずに現金化できるというのは非常に重要であって、結局のところ、普通預金とか定期預金といった損をしない金融商品(とすら言われないことも多いですが)の重要性はまさにここにあるわけですが、ヘッジ・ファンドと普通の投信との差についてFT紙にこんな話が出ています。ヘッジ・ファンド的な投資戦略というのは、通常の投信でも可能なわけですが、常に出し入れが可能(もっとも、投信の場合は純資産での換金なので損をしないというカテゴリーにはあてはまりませんが、純資産で脱出できるというのは流動性リスクは極めて少ないというのが投資理論です)な投信はパフォーマンスが低いという結論なんだそうです。

結局、タダのものはないっていう話なんでしょうけれど。って、仕組債も同じなんですけどね(ってあまり単純化しすぎると、それを悪用しようとする輩がいるのも困りもので、単純な真理ほど説明や理解が難しいという側面もありますが)

2013年4月5日金曜日

一括借り上げ方式とRMBSの格付け

世の中では、アパート・ローンや投資用マンション取得用ローンの証券化の案件が多くあって、証券化分析上の重要な要素であるべきではないものの、少なくともローンを借りる側が物件取得やローン借入をする上での重要な意思決定要素になったのは、デベロッパーによる「(一括)借り上げ」のはずです。新聞でもハウスメーカー(と言いつつ、儲けの源泉は土地持ちにアパート建てさせることなのですが、それはさておき)が一括借り上げによるアパート経営を盛んに持ちかけますが、土地すら持っていない人に投資用マンション買わせようというときに一番効くのが、この借り上げなわけです。「ローン借りても、返済分は賃料(保証)で賄えますよ」というわけですね。

ところが、実際には(一括)借り上げの賃料保証の多くは「近隣賃料の90%保証」「数年後見直し」となっているわけで、そんなもの保証じゃないと言いたくなることが多いというのが実情のようです。ということは、たとえば三重県の液晶パネル工場があった場所のように、企業業績悪化→人減らし→雇用減少→借家需要減少、といった場所では、下手するとローン返済できない賃料しかもらえなかったりするわけです。デベロッパーの側は「嫌だったら、自分で不動産屋と契約して、テナント探せば!」とケツをまくる気でいますが、大家さんの多くは楽なカネ儲けだと思っていて自分で不動産経営をしているつもりなど実はないわけで、結構大変なわけです。

という背景を知っていると、S&Pが今年度の日本の証券化市場について書いているレポートで、RMBSではアパート・ローンと投資用マンション取得用ローンを裏付けとするものでは借り上げ賃料引き下げのリスクがあって、その場合には格付けに影響するかも、と言っていることも、妙に納得できたりします。

ヘリコプター・マネー

昨日の日銀がヘリコプター・マネー(景気をよくするにはお金をバラ撒けばよい)だというのは、若干違うように思います。ハイパワード・マネーはマネー・サプライそのものではないので、確かにヘリコプター・マネーは銀行券ですからハイパワード・マネーでもありますが、預金されない限り信用創造の基にならないわけで…などと思ったりします。確かに、日銀さんとしてやれることはやったのでしょうが、資産価格に働きかけることはできても、景気を刺激するには消費に直接働きかけることはできず、インフレ期待を操作することで間接的にお金を使ってもらうしかないんですね。

ま、それは政府の仕事だと言ってしまえばそれまでで。

2013年4月3日水曜日

キャロライン・ケネディ氏

ケネディ氏は、JFKの娘さんで、また、JFKジュニアのお姉さんでもあるわけで、それだけでうーんと思いますが、08年の民主党予備選でまだ存命だった叔父さんのエドワード・ケネディ上院議員とともにオバマ候補の支持を表明したときには結構びっくり、かつ、NYT紙のコラムには感動したものでした(どうでもいいことですが、タイトルの「A President Like My Father」の不定冠詞の使い方は、当たり前ですがなるほどと思いました)。

なので、日本大使として来てくださるなら嬉しいし、また、ブルームバーグにもある(英文和文)ように、日本の(こういう言いかたはちょっと失礼だと思うのですがお赦しいただいて)女性の社会的地位の一層の向上のためにプラスになるならなおさらです。

ただ、アメリカでは日本大使の地位は比較的バカにされていることは忘れてはいけないとも思ってまして、「共和党の副大統領は大統領選挙に負けても次があるけれど、民主党の副大統領は大統領選に負けると在日大使ぐらいにしかなれない」(モンデール氏のことですね)というのをどこかで見たことがあるのですが、今回のケネディ氏の大使就任の動きを受けて、ワシントン・ポスト紙が:

"Diplomatic sources said that the Japanese tend to be flattered when the American ambassador is a person of great renown, because it confirms their importance to the United States. "

と報じていて、あーそんなものなのよね、と思いました。「おだてられやすい」って、ま、その通りなんでしょうけれど。しかも、これはアメリカの見かたではない、つまり、アメリカが日本を重要に思っているから知名度の高い大使を送り込むと言っているわけではないところが、なおさらなおさらですよね。

"In a precarious time for a region threatened by the increased bluster of North Korea, fallout from the nuclear accident in Japan and the country’s seemingly unyielding economic malaise, a Kennedy ambassadorship sends a strong message of commitment to the Japanese."

という部分も同じで、コミットメントを示すのではなくて「コミットメントについての強いメッセージとなる」というわけです、はい。ま、ワシントン・ポストですから、シニカルというか冷静なのは分かりますけど。

金利スワップの最高裁判決(3月26日)

別の調べ物をしようとしたら、上記判決を最高裁のホームページで見つけました。原審は7日のと同じ日の福岡高裁のやつで、世の中では同じものという理解がされていると思いますが、えっらい銀行よりなのねという感想は(いいか悪いかは別にして)ありますよね。原告側の作戦負けという私の意見は変わらないのですが、続くと、金利スワップという名前で契約されていると、単純→原告負け、と自動的にされてしまい、ちゃんとした議論がなされないのではないかという点が気がかりです。

2013年4月1日月曜日

高橋財政との比較

自分が過去20年間体験したデフレと、教科書でしか見たことのない過去の財政・経済史を比較することはあまり適切ではないようにも思いますが、FT紙のこの記事を見て納得するのは「日本人はやるときはやる」という評価ですね。私の見立ては「最終的には(あまりひどいことにならずに)なんとかなるんじゃん」というものなので、アメリカ人が総体的に持っている妙な楽観とは異なりますが…。