2012年12月30日日曜日

価格は重要事項ではない(H22.3.30最三判・集民233-311)

ちょっと消費者契約法の「不利益事実不告知」を調べる必要があって判例を見ていたのですが、価格の動向については、同法上の重要事項には該当しないという最高裁判所の判例がありました。

不利益事実不告知というのは、要するに、業者(法律上は「事業者」)が個人客(法律上は「消費者」)に対して勧誘をする際、いいことだけを言って悪いことを言わず、かつ、そのいいことだけしか言わなかったことによって普通の人であれば悪いことは存在しないんだと思ってしまうようなときのことであって、消費者契約法上は、それによって、悪いことは存在しないと客の側が思ってしまった場合には契約を取り消せることになっています。

「金の価格は今後上がりそうですよ」と言って勧誘(消費者契約法上の断定的判断の提供は否定されている)した際、下がる可能性について触れなかったのが不利益事実不告知だというのが原告・被上告人の主張なのですが、同法上の重要事項は「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容」「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件」なのだから、価格は含まれないというわけです。

もっとも、上告審では、この消費者契約法上の論点だけについて判断されているわけで、説明義務違反(不法行為・債務不履行)については控訴審で再審議となっていますから、被告側が勝ったというわけでは必ずしもないようですが。

集民ということは、類似の民集判決があるはずなので、もう少し見てみなくては…。

2012年12月27日木曜日

デリバティブの紛争

紛争になっている事例を見て思うのは、個人の仕組み債投資はまだともかく、法人のデリバティブのえげつない奴は、取引前にプロに相談しておけばいいのにということです。ま、勧誘してくる金融機関を利害関係ないプロだと思ってしまうのは素人さんはやむを得ないのでしょうし、それ自体が自己責任の一部を構成しそうですが、それだけではなく、結局、アドバイスに金を払うことが勿体ないんですよね。タダほど高いものはないんですけどね。

2012年12月26日水曜日

引き算デリバティブ

・ 1ドル>95円だったら、1ドル=70円で100万ドルが買える。
・ 1ドル<75円だったら、1ドル=「200円-市場実勢ドル円相場」で200万ドルを買わなくてはならない

という取引を考えてみましょう。後者は若干分かりにくいですが、ようするに、レートを決める日に、ドル円の為替レートが1ドル=70円だったら、200万ドルを1ドル=130円(200円-市場実勢為替レートである70円(1ドルあたり))で買わなくてはならないということです。

こう見ると、ものすごく複雑にも、ものすごく単純にも見えますが、実際はその中間です。まず前者ですが、前者は:

・ 1ドル=95円を行使価格とするドルのコール・オプション100万ドル分の買い
・ 1ドル=95円を行使価格とし、ペイオフ(受け渡し額)を1ドルあたり25円とするバイナリー(デジタル)のコール・オプション100万ドル分の買い

となります。1ドル=100円のとき、前者からは1ドルあたり5円、後者からは1ドルあたり25円、それぞれ手に入るため、経済的効果としては市場実勢よりも1ドルあたり30円利益が出る、つまり、1ドル=70円(=100円-30円)で100万ドルを購入したのと同じ効果となるわけです。

後者については少しだけ複雑なのですが、実は、この取引をやることによる損益を考えれば簡単です。ドルの買い値が「200円-市場実勢為替レート」で、これをそのときの市場実勢為替レートで売却すれば損益が分かるわけです。つまり、「200万ドル×{市場実勢為替レート-(200円-市場実勢為替レート)}」であり、これは、すぐに「200万ドル×2×(市場実勢為替レート-100円)」と書き直せます。つまり、400万ドルを1ドル=100円で購入するのと同じ損益となる取引です。ところが、この式が有効になるのは1ドル<75円のときだけです。つまり、1ドル=75円よりも円高になると、400万ドルを1ドル=100円で買わなくてはならない取引というわけです。ちなみに、この取引は:

・ 1ドル=75円を行使価格とするプット・オプションの売り400万ドル
・ 1ドル=75円を行使価格とし、ペイオフ(受け渡し額)を1ドル=25円とするバイナリー(デジタル)のプット・オプション400万ドル分の売り

となります。

掛け算・割り算デリバティブ

『1ドル=65円×「65円÷市場実勢レート」で10万ドルを買う』というタイプのデリバティブを見かけることがあります。このとき、10万ドルをこの妙な式で買った上で市場の実勢レートですぐに売却すると:
・ 支払い額 10万ドル×65×65÷市場実勢レート
・ 受取り額 10万ドル×市場実勢レート

となるため、その差である、10万ドル×(市場実勢レート - 65^2÷市場実勢レート) が損益となります。

分数にしてみれば分かりますが、( )の中は、「(市場実勢レート^2 - 65^2)÷市場実勢レート」と書いても同じことです。ところで、この前半部分は、因数分解の基本ですから、さらに、「(市場実勢レート+65)(市場実勢レート-65)÷市場実勢レート」と書いても同じことです。

ところで、一般の、つまり、たとえば単純に1ドル=65円で10万ドルを買うという取引の場合、その損益は、「10万ドル×(市場実勢レート-65)」とあらわされます。この不思議な式のデリバティブと並べてみると:

・ 10万ドル×(市場実勢レート-65) ・・・ ①
・ 10万ドル×(市場実勢レート+65)(市場実勢レート-65)÷市場実勢レート ・・・ ②

となります。 ②÷①は「(市場実勢レート+65)÷市場実勢レート」であり、つまり「1+65÷市場実勢レート」です。

なにが言いたいのか? 要するに、冒頭の取引引は、「1+65÷市場実勢レート」倍のレバレッジがかかっている(「1+65÷市場実勢レート」×10万ドル分の取引をしている)のと経済効果は同じということです。ここで、市場実勢レートが1ドル=65円よりも円高になればなるほど、レバレッジは高くなる、つまり、ドルを買っている人に不利になりますし、1ドル=65円よりも円安になればなるほどレバレッジは緩くなる、つまり、ドルを買っている人の有利さは減っていきます。中学校の数学が役に立つ話でした。

中国の格付け会社が米国債を格下げ含みに

中国語(http://www.dagongcredit.com/content/details20_7675.html)・英語(http://en.dagongcredit.com/content/details20_6873.html

基本的には、正しい分析なんでしょうな。現在のシングルAっていう格付けに意味があるかどうかは別ですが…。

2012年12月25日火曜日

デリバティブの喩え話

デリバティブをなかなか理解してもらえないとお悩みの人達は多く、上手な喩え話を考えればそれなりに喜ばれるようです。私もいろいろと考えてはいるものの、なかなか…。

たとえば、金利スワップ、クーポン・スワップ、コモディティ・スワップなど、変動するもの(短期金利、ドル/円の為替レート=1ドルの価格、金属の価格など)と、決まっているもの(≒価格)とを交換するとりひきですが、こんなのはどうでしょう:

『毎週水曜日に、東京ドームのネット裏の席を1席5,000円で確保します。決まっているのは「毎週水曜日」というだけなので、巨人戦があるかもしれないし、アメフトになるかもしれないし、もしかするとドッグ・ショーとかフラワー・ショーといったスポーツと関係ない試合かもしれません。さらに、そもそもなんの催しものもないかもしれません。とにかく、巨人戦であってもなくても5,000円で1席は確保します。』

巨人ファンの人からすると、このような契約にも意味があるかもしれませんよね。ちなみに、1席5,000円というのは「強制」であって、巨人戦だったら1席5,000円で試合が見られるけれども、巨人戦以外でも1席5,000円でチケットを買わなくてはならないという契約です。

うーん、野球はシーズンがあるし、かつ、将来のスケジュールが結構早くから分かっているから、ちょっと違いますかね。というのも、この手のデリバティブの特徴として:

1) 不確実な将来について、(好かれ悪しかれ)確実性を与える
2) 契約は原則として強制である

というのがあるため、変動要因が必要なんですね。ですから、価格に相当するものを「時間」と構成した上で、例えば、上の例を「巨人ファンの人が、神宮球場に、毎週水曜日、午後8時から午後9時までいなくてはならない」とすればいいでしょうか? 相手が巨人であればこれは権利ですが、相手が巨人以外だったり、雨で試合が中止になったりしたらこれは義務になります。さらに、巨人戦以外の場合には、午後6時から午後9時まで3時間いなくてはならないとしたら、これは日本の銀行が得意な「レシオ型」のフォワード契約と同じですよね。また、相手が巨人の場合でも、球場が90%以上埋まったら退出しなくてはいけないとすれば、これはノックアウト条項付ですね。

なんか、もっといい例が考えつかないでしょうか…。

全部取得条項付種類株式の買取価格決定

09年にあったM&A案件で、ありがちな全部取得条項付種類株式を用いていて、少数株主が買取請求をしていたのですが、全部取得の効力が発生してしまって、株主でなくなるのだから、ダメよっていう決定があったんですね(H24.3.28最二決・民集66-5-2344)。

文句言う時は、社債等振替法上の個別株主通知をし、全部取得の価格争うしかないってことなんですかね。

2012年12月24日月曜日

いわゆるテクモ事件について

 いわゆるテクモ事件については、法律の専門家がいろいろなコメントを述べてらっしゃるので、そちらの方面から素人がどうこう申し上げることは特にないのですが、須藤裁判官の補足意見がとっても共感できるので、ちょっと引用したくなりました:

『企業の客観的価値は、理論的、分析的には、当該企業の将来のキャッシュ・フロー…の総和から負債価値を控除したものとされるとしても、将来のキャッシュ・フローは未来の不確実な事象に基づく不確実な数字であるから、正確な企業価値を直接に測定することは不可能である。 』 → ほんとそうですよね。企業価値算定が学問だと思っている人のなんと多いこと!

『企業の客観的価値やその増加分を可及的に正確に認識しようとするために、財務数値や経営政策などを手がかりにしつつ様々なシミュレーションや条件を組み合わせることによる評価算定方法がこれまで考案され、また、実際にも用いられているところである。しかしながら、これらの評価算定方法は、いずれも専門的であって、到底平易なものとはいえず、…専門家の鑑定によるということになればその費用は高額に達し、少なからぬ時間を要することにもなろう。のみならず、これらの評価算定方法も、所詮は不確定的な数値による予測等を基にするという性質は避けられず、不確実性を免れない。』(下線筆者)  → ぱちぱちぱち

 デリバティブの理論値と違いますからね、企業価値評価は。この決定で、市場価値がある場合には市場を参照すべしということが根付けば、デリバティブのほうももう少し進みますかね。もっとも、デリバティブのスマイルとか、リスク・リバーサルとか、複雑かつ実は市場は存在しているのだけれども単純なインプライド・ボラティリティよりもさらに見つけるのが難しいやつがあるという厄介さは残るのですが。

なるほど(妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持ち同棲するに至つた女性の行為と右未成年の子に対する不法行為の成否)

さっきの、不倫の相手方である男性に、女性(人妻)の子供に対する不法行為はないというのが集民だというのは、同じ日に、不倫の相手方である女性に、男性の子供に対する不法行為はないという判決がやはり最高裁で出ていて、そちらが民集(33-2-303)に載っているからなんですね。「お前はどこまで暇なんだ」と言われそうですが…。

夫及び未成年の子のある女性と肉体関係を持ち同棲するに至つた男性の行為と右未成年の子に対する不法行為の成否

未成年者が借りたお金を返さなかったら、親が返済義務を負うのか否かを、きっとそうに違いないとは思いつつ判例を探していたら、全然関係ないけれど興味深いのを見つけました:

『夫及び未成年の子のある女性と肉体関係を持つた男性が夫や子のもとを去つた右女性と同棲するに至つた結果、その子が日常生活において母親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなつたとしても、その男性が害意をもつて母親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、右男性の行為は、未成年の子に対して不法行為を構成するものではない。

けだし、母親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、他の男性と同棲するかどうかにかかわりなく、母親自らの意思によつて行うことができるのであるから、他の男性との同棲の結果、未成年の子が事実上母親の愛情、監護、教育を受けることができず、そのため不利益を被つたとしても、そのことと右男性の行為との間には相当因果関係がないものといわなければならないからであり、このことは、同棲の場所が外国であつても、国内であつても差異はない。』

ふむふむ。

ちなみに、S54.3.30最二判・集民126-423で、さすがに民集ではないですよね。

イギリスでの金利スワップ裁判について

 一応、マンチェスターのスコットランドのも目を通してみました。

○ マンチェスターのほう
 公刊されている裁判例を見ていて日本でも感じるのですが、訴訟を有利に 進めようとして「銀行にダマされた」という主張を、ユーザーがし過ぎのような気がし ます。銀行が条件を添付せずに署名させる書面だけファックスするなんて、通常はありえないですよね。
 その結果、原告側の証人としての信頼性もなくなり、全般的に原告側の主張はすべておかしいという色眼鏡で見られてしまったのではないかと。訴訟戦術として、極端な主張をして有利にことを運ぼうとするのも分からないではないのですが、預金誤認を主張して高裁からダメだしを食らった例(東京高裁H23.11.9 金法1939号106頁)を思い出しました。
 原告の事業の規模から考えると、「ひととおりの説明は受けたし、その説明で契約内容を分かったつもりには なったけれども、リスクを具体的なものとして認識できるような説明ではなく、説明義務は果たされていなかった」という主張であれば、まだ同情の余地があったのかもしれません。彼我の契約に対する覚悟度合いも考えなくてはいけないのですが…。

○ スコットランドのほう
 市場の動きについて金融機関側が意見を表面していることから、黙示的に助言契約が成立しており、その助言契約上の忠実義務等に違反しているのでは?というのが主要な主張なようですが、どだい無理ではないのかなぁーというのが印象で、裁判所の判断が妥当なように思いました。契約当事者間の力関係にあまり差を認めていないのは、事業者の規模から考えると問題だと思いますが、これは、やはり彼我の契約観にもよるので日本とは事情が異なるのかもしれません。

<日本で役に立つのか>
 結論から言うと、被告側が「ほら、イギリスでも原告が負けていますよ」という材料には確かになるのかもしれませんが、どちらも原告の主張が日本の事例とは異なっているので、直接的に被告側にメリットとなる内容ではないように思います。とはいえ、訴訟戦略としては自分に有利と思えるものはとりあえずなんでも言うという人が多いようで、その場合には、被告側が持ちだす可能性はありそうですね。

2012年12月23日日曜日

スコットランドの裁判(金利スワップ)

知人にマンチェスターの金利スワップの話をしたら、スコットランドでの裁判のことを教えてもらいました(http://www.scotcourts.gov.uk/opinions/2012CSOH133.html)。こちらも、ちゃんと中身を見なくてはいけないのですが、同じ被告(金融機関)で、やはり金融機関側が勝訴しているようです。ドイツでは金融機関側が敗訴しているのですが、あちらは最高裁だし、複雑さが違うようだし、といろいろありますが、研究はしてみるべきなのでしょう。スコットランドとはいえ、英語は英語ですし、書いてある英語にアクセント(訛)はありませんから…。

2012年12月22日土曜日

マンチェスター地方裁判所商事部判決(中堅企業の金利スワップ)

そもそもhigh courtというのは控訴審を扱う裁判所だと思いますよね? ところが、どうも調べてみると、第一審の裁判所のようです。イングランド&ウェールズの地方裁判所で商事部があるのは9か所で、マンチェスターとリバプールにそれぞれあるくらいですから、それなりに一般的な裁判所と判断するのでしょう。

まだ全部は読みきれていませんが、とりあえず日本でいう判決理由を見つけました(http://lexlaw.co.uk/wp-content/uploads/2012/12/GreenFinalJudgment.pdf)。英語なので、ドイツ最高裁のやつよりは読みやすいはずですよね。

イギリスで金利スワップの訴訟

Win for RBS in rate swaps case
報道によると、05年に締結された金利スワップで、いわゆるリーマン・ショック後の金利低下でヘッジの効果がなくなり、かつ、解約精算金が多額になったというケースで、金融機関が勝利したみたいですね。中身はまた見てみますが、英語である分、例のドイツ最高裁判決よか解読は楽そうですが。

2012年12月20日木曜日

LIBOR操作事件

英FSAのUBSに対する処分の詳細(http://www.fsa.gov.uk/static/pubs/final/ubs.pdf)を読んでみました。スキャンダラスに煽ってみることも可能なのでしょうが、所詮、OTCなんて程度の差はあってもこんなものだよなぁー、などと思ってしまうところが業界の内部にいたことのある証拠なのかもしれません。LIBORについては、連動する金融取引が500兆ドルと英FSAが言っているのはどこから持ってきたのかしらんなどと思いつつ、でも、大手の銀行が適当に出している数字を平均したものがLIBORだってプロはみんな知ってたんじゃんという感じでしょうか。

今回、「トレーダー」(日本でいうディーラーですね)は、LIBORをできるだけ高くしたい時期と、できるだけ低くしたい時期とがあったようで、トータルで見たときに誰かがどこかで損をしたのかどうかもなかなか難しいように思います。金利が高いほうがいい人(投資家・お金を貸した人)の裏側には金利が低いほうが望ましい人がいるわけですし。ま、操作そのものが悪いという行政からの業法ちっくな処理はごもっともではありますけれど、民事となるとどうなのでしょう。

個人的には、プロがプロ(であるべき人)とビジネスするときはどれだけ利益を上げても許されるとは思っているのですが、それも程度の問題なんでしょうね。

政策決定会合

ま、正式には政権交代前ですから、あまりドラスティックなことを期待してはいけないのでしょうし、そこまで政治的な組織でも日銀はないでしょうから、今日あたりのところが予想どおりなのだろうと思います。

狂乱物価・所得倍増とはいいませんが、もうちょっと景気のいい話もしてほしいなぁーと思いつつ、それは日銀ではなくて政府の責任なわけで、政府がほんとうに腰を据えてデフレ解消・名目成長率大幅プラス目指してくれないと困りますよね。

たとえば、政府は所得倍増につっぱしる、それを2%台のインフレで抑制してみせるという日銀の気概を日銀の独立性を保つことで示すということであれば、面白いかもなどとも思いますが。

2012年12月19日水曜日

諸外国

今回の政策協調の件で、諸外国の中央銀行の独立性とかインフレ目標の運用とか色々出てますね。どれも参考にはなるのでしょうけれど、金融危機が誘発した世界(ほぼ同時)デフレは未曾有ですし、日本の失われた20年はユニークなものですから、結局、前例のないことをやらなくてはいけないのではないかということ以外の正解があるとは思えません…。

2012年12月18日火曜日

インフレになると

2%などというのが、今の日本の窮状を救うのに適切なインフレ目標だとは到底思えませんが、それはさておき、インフレへの備えは必要そうですね。インフレは心理的な現象なので、おっちょこちょいな行動が吉となるように思います。理論的には、実物資産を買い、借金をすべきです。庶民である我々には、家を買うというのがロジカルな行動パターンですね。

資産インフレは、分かりやすい資産から周辺に波及します。不動産の取得でインフレに備えるには、都会・駅近・ブランド地名がポイントなんでしょうね。その後、都会の中、さらに地方に波及するように思います。資産防衛という意味では、やはり新築は避けるべきで、新築であることの意味をきちんと考えなきゃいかんのでしょう。

金融商品的には、まずREITですよね。借金して不動産買うという構造を内在してますから。中でも、できるだけおっちょこちょいな、つまり、都会の立派な物件を多く持っている銘柄がいいのでしょう。

もっとも、冒頭に書いた通り、2%くらいにインフレなんだとすると特に備える必要はないんですが…。

2012年12月17日月曜日

デリバティブと理論値

コモディティの先物は、将来の受け渡しのもののほうが価格が安いという特徴を一般的に持っています。これは、コモディティは使ってナンボという性質があるため、すぐに使えるもののほうが価値が高いからだと説明されています。実際、2005年とか2006年にはこの傾向は顕著でした。ちなみみ、コモディティ取引の主流は、世界中で取引されているモノであることから、ドル建てです。

また、通貨の先物(為替予約)は、対円で見ると、将来の契約(受け渡し・決済)ほど円高・外貨安になって、数字が小さくなります。これは、金利差から出る当然の帰結です。

本来、コモディティにも金利と倉庫代という要素があるため、将来の受け渡しのものの価格は高くても不思議ではないのですが、取引所の先物価格のほうが理論値よりも正しい、つまり、正確に需給を反映していると考えればいいでしょう。

ということは、コモディティ・スワップはものすごいディスカウントになるということになります。価格の固定化を図った人は、現物の時価と比較するととても安い価格の円建てコモディティを確保できたはずなのです。

ただ、見た目がいいときというのは、往々にして、業者が利益を取りやすいっていうのもありますよね。構図としては、いわゆるクーポン・スワップと同じなのかもしれません。

2012年12月14日金曜日

仕組債と円安

今朝の日経に、仕組債のヘッジ巻き戻しが円安の一因と出てますね。それが正しいかどうかは別として、起きたであろうことは、FXターンとか呼ばれる商品では30年後に外貨で償還されるのですが、そこには将来の円売り・外貨売りが組み込まれています。そのヘッジに、スポットで円売り・外貨売りするのですが、売って得た円を30年運用しなくてはならず、そのレートを確定するために、円金利スワップの固定受け・変動払いをするわけです。その巻き戻しは固定払いなので、長期金利の上昇要因ですよね。

2012年12月13日木曜日

FOMC声明

日銀と言っていることも、やっていることもそれほど大きく変わるわけではないのですが、景気のこと、インフレのことを真剣に気にしていることが伝わってくる分、メッセージ性でFEDの勝ちという感じがします。前回からの違いを説明していて分かりやすいWSJ紙の記事(http://blogs.wsj.com/economics/2012/12/12/parsing-the-fed-how-the-statement-changed-27/)を読んでみて、やはり長期債の購入はアウトライトっていう読みかたなのよねと納得しつつ、インフレ率が2.5%を見通せるとか、失業率が6.5%を下回るとか、そういった視界を持っているところが凄いわ、と感心いたしました。

確かに、中央銀行が独立しているのだとすると、適切だと考える経済指標について堂々と発言することもありなんでしょうね。

2012年12月11日火曜日

ヘッジと相場観(つづき)

彼女/彼氏ができた。電車で会いに行ける。毎日でも会いたいから定期券買おうかな。でも、実際に毎日会えるか分からないし、もしかすると、振られるかもしれないし…(あるいは同棲するようになって電車乗らなくなるかもしれないし…)。

上記のようなシチュエーションで、毎回切符を買うというのは、金利スワップでいう変動金利ですし、銀行が「クーポン・スワップ」と称している長期の連続型・同一レートの為替予約をしないで毎月スポット(市場実勢)で外国為替の手当てをするのと同じです。逆に、定期券を買うというのは、金利スワップでいう固定金利、クーポン・スワップで為替レートを固めることに相当します。

定期券を買うかどうかを決めるのに、「モトが取れるかどうか」を考えない人はいません。たとえばですが、切符を買うと片道200円なのに、1か月定期券が2万円だったら50回往復することが必要なので、なかなかモトはとれません。逆に1か月定期が2000円だったら、多くの人がこの定期を買うでしょう。

「ヘッジには相場観は関係ない」「一定額を超えて負担が増えることがないことにヘッジの意味があるのだ」という主張は失当ですよね?

銀行の優越的地位

中小企業に限らず、企業は資金繰りが続かなければ潰れてしまいます。一方、世の中でお金を無尽蔵に持っているのは銀行です。つまり、企業が関与する経済システムでは銀行は内在的・本源的に優越性を有していることになりますよね。

2012年12月10日月曜日

デリバティブの時価評価

 1:3のレシオ型の為替予約の時価評価は、オプション性があるため難しいというのが常識です。しかし、概算は簡単です。

 たとえば、1ドル=80円のときに、1ドル=75円で1:3のレシオ型外貨予約(ドル買い)を毎月10万ドルまたは30万ドルで5年間締結したとします。 ここで、外国為替市場が変動して1ドル=79円になったらどうなるか?

 レシオ型が1:3でオプションが組み合わさっているものであることが分かれば、円高方向に向かったときの時価の悪化の仕方は3倍、円安方向に向かったときの時価の好転は1倍と考えればいいでしょう。上の場合、1円の円高は、30万ドル/月に効いてくるので、30万ドル×1円/ドル×60回=1800万円の時価評価損となるわけです。もちろん、実際には、業者が当初に利益を上げているので当初の時価評価損は為替レートが動いていなくても相当なマイナスですから、1800万円マイナスが増加するということなのですけれど…。

仕組債/デリバティブは保険引受と同じ

 考えてみれば、保険会社というのはリスクの高いビジネスです。私たちの火災保険や自動車保険を見てみれば分かるとおり、受け取っている保険料は微々たるものなのに、実際に保険事故が起きると払い出す保険金は莫大です。保険会社がビジネスとして成り立つのは、(1) 多くの人から保険を引き受けることで、事故が起きる確率を理論値とほぼ同じに管理できるため、(2) 受け取った保険料のほうが払い出す保険金よりも多くなるように料率を設定できるから、です。

 ところで、仕組債や、中小企業が金融機関と締結した(させられた?)とされる通貨関連デリバティブは、いずれも、実質的には投資者・ユーザーがオプションを売却している形になっています。オプションを売却すると、その売却によるリスクの対価を入手することができますが、それは、保険会社が保険料を得られるようなもので、確率的にはその全額がもらい得になることはあり得ません。必ず、どこかで誰かが大きな損をする、その引き換えとしての対価なのです。

 この対価の性質は、まさに保険会社が得る保険料と同じです。つまり、仕組債を買ったり、オプションが組み込まれたデリバティブに取り組むことは、保険会社が保険を引き受けるのと同じことなのです。ところで、保険会社はそのリスクの専門家であってリスク分析に長けていますし、また、リスクを理論的な確率として管理できるように多くの契約を引き受けます。一方、仕組債を購入する人が、数多くの仕組債を購入してリスクを管理したという話は聞きませんし、デリバティブに関しても同じです。むしろ、多数の取引をしたほうがリスクが高くなるという感覚のほうが一般的でしょう。その時点で素人丸出しなわけです。

 分析の専門家が分析し、かつ、それでも多くのリスクを引き受けることでリスクを分散しようとしているにもかかわらず、その真逆を素人がやっているのが仕組債でありデリバティブなわけです。一応金融のプロの末席を汚す私でも怖くてできないようなことをなさるのですから、素人さんってすごいなぁーと思ったりもいたします。ま、その怖さを知らないから素人なんでしょうけれど。

 保険引受と同じという比喩が難しければ、こう考えてもいいでしょう。仕組債を買ったり、オプションの組み込まれたデリバティブをやるのは、住宅保険や自動車保険を解約するのと同じです。保険に入らなければ、保険料を払う必要がないため家計は助かりますが、これは、仕組債を買って見た目の利息が高かったり、オプションの組み込まれたデリバティブに取り組んで目先の交換レートが有利になったりすることと同じです。保険に入らなければ事故が起きたときには大きな損失となりますが、仕組債で大きな損がでたり、デリバティブで多額の含み損が出るのと対比できますね。

2012年12月9日日曜日

仕組債と期待収益率

 今、5年の国債の利回りは0.2%を若干下回っています。流動性プレミアムの議論を少し脇に置き、かつ、日本の国のデフォルトリスクの議論も少し忘れるとすると(実はこのリスクはあまりないのではないかと個人的には思っていますが)、他の発行体の債券であっても、5年の期待収益率は0.2%に収束するはずです。

 たとえば、期間5年で利回り0.5%の社債があるとしましょう。国債を100万円保有していると5年間の利息総額は1万円ですが、この社債では2万5000円です。であれば、当然社債を買うべきではないかという結論になりますが、この社債の利回りが高いのは、この発行体がデフォルトする確率がゼロではないからです。直観的には、平均的には1万5000円分の元本割れが有りうるから、表面的に2万5000円の利息を支払っていることになるわけです。100万円のうち1万5000円ということは、単純計算では1.5%ですから、同じような債券を67銘柄保有していたら1銘柄はデフォルトするということになります。

 この例の場合、大手の機関投資家であれば実際に67銘柄を保有することが可能ですし、投資信託であっても(実際はともかく理論上は)同じです。ですから、期待リターンと実際のリターンとが一致することは多いでしょう。一方、 個人や中小規模の投資家は数銘柄しか保有していないため、あたれば(つまりデフォルトしなければ)国債よりも高い利回りが得られますが、はずれればゼロになります。

 期待リターンは国債に収束することを分かった上で、敢えて、ゼロになる可能性を知っていながら、投資をしている投資家は多いでしょうか? そうではないような気がします。

 仕組債も同じです。仕組債の期待リターンは、業者の儲けがなければ、つまるところ、国債の利回りに収束します。 目先のクーポンが10%だろうが20%だろうが、元本毀損の確率とその程度とを加味すれば、長期的には、結局は国債と同じだけの利回りしか得られないのです。しかも、業者が利益を上げていますから、実際には、期待リターンは国債を大きく下回ることになるわけです。だからといって仕組債に投資してはいけないということではなく、それを分かった上でないと投資すべきではないということなのでしょう。

 ところで、統計には「中心極限定理」と呼ばれる考えかたがあって、広義の「大数の法則」ですが、これは、試行回数が多いと、実際の確率に収束していくというものです。簡単に言うと、仕組債を何回も何回も買っていれば、今の例で言うと、国債の利回りに収束するということです。つまり、過去に仕組債を買って成功した人というのは、実は、以降何度も繰り返して仕組債を買う「べきではない」という意味です。なぜかというと、頻度が高まると実際が理論に収束する、つまり、損失が必然になっていくからです。

ヘッジに相場観は必要ない?

 デリバティブに関する誤解のひとつに、ヘッジとして行われた取引には相場観が入る余地がないというのがあります。たとえば、変動金利の上昇をヘッジするためにユーザー側が「固定金利支払/変動金利受取」という金利スワップをした場合、この固定金利の水準が市場でのスワップ・レートと比較して高いことというのは、ヘッジとして取り組んでいる限りはユーザー側に不利な材料ではないというのです。

 単純に考えれば、例えば、5年の金利スワップで固定金利が2%だとすると、この取引をする経済的な合理性は、変動金利側の今後5年間の平均が2%を上回る(上述の固定金利支払の場合)場合です。しかし、金融機関側は、金利が変動しなくなることがヘッジの本質であるため、そのような(平均が2%を上回るという予想・期待)をユーザーが持っているかどうかは関係ないというわけです。

 この議論がおかしいのは、じゃあ、固定金利が10%でも15%でもいいではないかということですよね。金利がどこまで上昇するかは誰にも分かりませんから、10%や15%を超えないといことにも意味があるはずです。しかし、多くの人は「そこまでは金利が上昇することはないだろう」と考えて、10%や15%の固定金利の金利スワップに取り組むことはありません。たとえば2%という固定金利を払う金利スワップを「やってもいいかな」と思う理由は、10%にはならないかもしれないけれど、2%にだったらなるかもしれないと思うからです。これが相場観でないのだとしたら、なにが相場観だか分かりません。

 業界に長いこといると、面白い(片腹痛い)屁理屈はいっぱい見ることができますよね。

2012年12月8日土曜日

デリバティブの裁判

 最近、判例紹介誌でデリバティブや仕組債のが載っていると、とりあえず見ようとは思っているのですが、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、銀行が「レシオ・フォワード」と称して取引している1:3型の豪ドル買い取引で、わざわざ顧客にプレミアムを支払うタイプがあるんですね。私自身はゼロ・コスト・オプションは目くらましではないかというのが持論なので、結構新鮮でした。

 事例としては、同じ被告(証券会社)で他にもあるのですが、要するに、為替が円高に動いて、担保が足りなくなったところ、「担保が追加で必要になるなんて聞いていない」というところからもめ始め、「そもそも損するなんて思ってなかった」というありがちなパターンに展開していきます。この証券会社は、当初、「通常想定するボラティリティの2倍」を用いて最大損失額を算定して担保の必要額を計算し、追加担保の要否は「顧客の時価評価損×1.2」で決定することにしていたようです。ユーザー側は「そんなの聞いていない」とか「恣意的だ」という議論を展開する一方、業者側は「業界スタンダード」とか「複雑すぎて事前に説明できない」というように話を持っていくようです。

 ま、実際には、とっても単純なことを、あまり単純に説明すると手品のネタがわかっちゃうから、裁判になってもそれをちゃんと話さないということみたいです。それにしても、この手の商品性を法曹界の方々が感覚的に把握するのが大変そうで、いろいろな判例を見ていると同情しちゃいますね。

2012年12月4日火曜日

『お金の倉庫』っていうことなんでしょうけれど

Credit Suisse to penalise franc deposits - http://www.ft.com/cms/21facaba-3d60-11e2-b8b2-00144feabdc0.html

他の銀行から預っている決済用預金に対して、保管手数料を徴収するとか。スイスの話ですけど…

ヨーロッパのCMBS

Europe’s property loans go unpaid - http://www.ft.com/cms/2183f122-3d5d-11e2-b8b2-00144feabdc0.html

特に目新しい話ではありませんが、ヨーロッパでCMBSの裏付け債権の返済が進んでいないとか。

2012年12月1日土曜日

利益と損失の非対称性について

デリバティブの取引や仕組債で損をしたと主張する人達に共通することは、取引を始める際に、利益と損失の非対称性についての理解がちゃんとできていなかったことではないかと思います。誰に(もしくはそもそも)説明責任があるのかという議論はとりあえず脇に置いておくとして、儲かってもごくわずか、損するときはとことん損をするという特徴をきちんと理解した上で取引をしているとは到底思えないケースが多いわけです。

逆に、利益と損失とが利益に偏って非対称的なものがあります。典型的なのは火災保険で、保険料は微々たるもの、保険金は支払った保険料と比較すれば膨大です。このような取引は機会があれば加入すべきだという理屈になります。

実は、日本の国債を空売りするというのが、利益と損失の非対称性が際立っている取引と言えます。というのも、利回りは(多分)マイナスにならない(はずな)ので、10年国債の利回りが0.7%からゼロになったところで価格は7%しか上がりません。しかし、0.7%の利回りがたとえば3%になると価格は18%下がります。確率を加味すれば…という議論はそうですが、これこそ逆ブラックスワン取引でしょう。

逆に言えば、現在の金利環境で、債券を買うことがいかに非対称的かという証明でもありますよね。だから普通預金や個人向け復興国債がいいのでは、などと思ったりするわけですが。