2010年3月30日火曜日

同業他社比較

ある会社のクレジットを判断する上で、つい見逃しがち、サボりがちなのが同業他社比較。しかし、上場会社の決算資料/有価証券(四半期)報告書は情報の生きた情報の宝庫であり、これを活かさない手はありません。新規に投融資を検討する際もそうですし、事後管理に際して、投融資先の今後を占う上でも重要です。
ということで、旭硝子さんについて今日S&PがA(シングルA格)を据え置く一方で、アウトルック(見通し)をネガティブから安定的に変更しました。旭硝子さんの場合、日本板硝子さんと同じ分野、つまり、自動車やビル/建物用と、日本電気硝子さんと同じ分野、つまり、液晶用ガラスの双方があって、前者はどちらかというとコモディティであってかつシクリカル(景気敏感)ですが、後者はスペシャリティ材(世界に4社しかないという噂を聞いたことがあります:あとの2社は米コーニングと旧NHテクノグラス → NHテクノグラスのNは日本板硝子さんのNですね)で、液晶需要が高まれば儲かると。
ま、中国×(好景気+不動産バブル)=コモディティ・ガラス、中国TV補助金+日本エコポイント=大画面液晶TV、といったことでしょうから、アウトルックの変更は順当と判断します。おそらく寄与度としては液晶のほうが大きく(最新のは見ていませんが、コーニングもこの分野は好調です)、まだまだ世界経済は不安定と見ていますからコモディティは不安ですが。
もっとも、市場クレジット的に言うと、このあたりのJapan Inc.の一角を担っている会社さんで、S&PまたはムーディーズからシングルAが附されていると、スプレッドという意味での投資妙味はほとんどなく、むしろ、いかにショートを振るのか、あるいは、「実はカス」にひっかからないためにはどうしたらよいのか、という方向での分析にならざるを得ないところが悲しいわけで・・・。

Business Development Companies ("BDCs")

REITの投資対象は原則不動産で、収益のほとんどを出資者に分配するなどの条件を満たすと、税法上、配当が損金算入される、つまり、ビークル段階では法人税がかからないのと同じことになります。日本の法制度上、REITは「投資法人」という法人形態で、投資法人の投資対象が不動産に限定されているわけではないのですが、日本のほとんどの投資法人はJ-REITです。
米国には、中小企業向け投融資を主たる運用対象にし、収益をほとんど配当することで法人課税されないビークルであるBDC(Business Development Company:「投資開発事業法人」とでも訳すのでしょうか?)というのがあります。
たまたまですが、Aresという米国西海岸のクレジット運用会社を母体とするAres CapitalというBDCが、Allied Capitalという同業他社を吸収合併するのに際して、昨日(29日)、S&PがBBB(トリプルB格)を、ムーディーズがBa1格を、それぞれ確認しています。また、タイミングは偶然だと思いますが、フィッチが同日、昨年1年間のBDCの比較分析レポートを発表しています。
それにしても、日本でクレジット投資がなかなか根付かないのは、銀行が強すぎるからなのでしょうか…。
(ちなみにですが、Aresは英語では「エリーズ」と発音しますが、日本語では「アレス」らしく、Wikipediaによればギリシャ神話に出てくる軍神なんだそうです。) (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%82%B9

2010年3月29日月曜日

日本の損保業界

ムーディーズが、日本の損保業界に対して、引き続きネガティブな見通しを持っているとのこと。ニュース・リリースを見る限りでは、要するに、自動車保険が主力だが、人口が減少する中、運転者も減るのでジリ貧だろうという発想のようです。
サブプライム問題に伴うモノラインとの取引や信用保証業務の影響を見極めようとしたとき以外、過去にあまり真剣にクレジットを検討したことのない業界なので、時間のあるときに見てみようと思っています。既に、分析の対象となるべき会社の数も減ってきてますし。

アイフル格上げ

S&Pがアイフルの格付けをCCC-(トリプルCマイナス)からCCC(トリプルC)に引き上げましたね。要するに、当面の資金繰り負担が軽減されたために優良(まっとう?)な債務者に融資が再開できる(←つまり、これまでは資金繰り優先であったため、回収に走っていた)ことと、大幅な準備金積み増しによって、当面の過払い金支払い(キャッシュアウト)が財務的な影響にならないことを加味したものと読み取れます。
債務再編(リストラクチャリング:必ずしもCDSの契約上の意味ではありません)を経験した企業をシングルBレンジに持っていくのは格付け会社としても躊躇するようで、海外の例を見ても、概ね、このあたりの水準で様子を見るという傾向がありますね。
ただ、先日も申し上げましたが、このあたりの格付けになると、格付けのユーザーの側も無関心でいるしかないというか、トリプルCマイナスとトリプルCの差ってどこ?というか、特に、債務再編の対象となった債権者からするとそうですよね。
ロイターの記事(http://jp.reuters.com/article/treasuryNews/idJPnTK037539320100329)を見るとCDSの清算値が決まったことが社債取引の動意になっているようですが、ちょっとピンとこないので、解読できたらお知らせします。

サイクルベースあさひ

「株式会社あさひ」の2010年2月期の決算短信(https://www.release.tdnet.info/inbs/140120100325054679.pdf)が出てますね。第3四半期決算でも感動したのですが、フリー・キャッシュ・フロー出しまくりで、前年度に発生した短期借入金をきちんと返済して無借金。自転車屋さんとしては「サイクルベースあさひ」で、この近所にもありますし、帰省先からはほぼ同距離に2件あるのですが、店員さんもなかなか愛想のよいプロばかりです。
こんな会社さんばかりだとカネ貸しは楽ですよね。規模の面から、格付けを取得しようとすると多分シングルAどまりだと思いますが、それは「社債」という、事後管理の効かない形態だからであって、融資という形で「最近は調子どうっすか」と聞きに行ける形にしておけば、実際には相当リスクは低い先さんですな。

2010年3月28日日曜日

2010年問題はあるのか

業界紙向けの記事を週末に書いていたのですが、S&Pが先週の半ばに、有料記事で、今年はCMBSの裏付け資産のリファイナンス大変だぜ!というのを出していたのに気付きました。皆が分かっていることではあるのですが、一方で、(1) バランスシートに余裕のある金融機関は、今の不動産評価額を基にしてLTV70%程度なら絶対に損しないと思っている、(2) 差し押さえて叩き売って損失を確定させるには市場が落ち込み過ぎていて既存の債権者である金融機関は延長に応じている、という妙な均衡がいつまでつづくかに拠ってくるんでしょうね。
明日・明後日あたりで、不動産金融専門誌からの依頼原稿があるので、このあたりをテーマにしようと思いつつ…。

2010年3月27日土曜日

巨人は負けたが、クレジット市場との関連を考えてみた

東京ドームで久々の巨人戦観戦。とは言え、昨シーズンのドーム最終戦は見に行ったので、ドームでの巨人公式戦は2試合ぶりということですか。
前回も先発はゴンザレスだったと思うのですが、今日はゴンザレスがよくなさすぎましたね。でも、敗色濃厚だったので7回裏の「闘魂込めて」を歌ったら帰ろうと思っていたのですが、愚息の片割れが最後まで見ると駄々をこねるので残っていたら、長野のプロ入り初安打と、坂本の今季初安打(ホームラン)が見られたので、まぁいいかと。すべての試合に勝てるわけではありませんし。
野球は、ビジネスの世界と異なり、大敗しても惜敗しても負けは負け、1点差でも10点差でも勝ちは勝ちで、勝ち負けに重さがないですよね。ところが、ビジネスの世界では、こつこつと勝ち(儲け)を積み重ねていっても、一発の負けですべてが吹っ飛ぶというケースがままあります。カネ貸しが典型的で、儲けるときは利息として年に数%(しかも、カネ貸し自らの調達コストを考えると実際の利益はもっと少ない)なのに、損をする時は元本すべてがなくなります。10年分の利益を1年で吹っ飛ばすというサイクルを繰り返しているというので「ブラックスワン」ではSucker扱いされてますよね。
金融アナリストの自己弁護、というわけではないのですが、だからこそ、クレジットに携わる人間はいろいろな意見を聞きながら、意思決定をすることが重要というわけですな。

中小企業のためのデリバティブ入門

PHPさんから出して頂いた「中小企業のためのデリバティブ入門」(http://www.php.co.jp/bookstore/detail.php?isbn=978-4-569-69258-6)が3刷に突入しました。みなさん、ありがとうございます。
もっとも、最近の中小企業さんの取り組んでいるデリバティブはもっと過激で、フラット為替(金利系デリバティブの人には「クーポン・スワップ」ですよね)は当たり前で、それをシンセティック・フォワードのノック・アウト付きとかいうのを平気で取り組むみたいです。個人的には、ノック・アウトとか入れてまで姑息にレートいじってどうするの、と思いますが、儲けたい金融機関、助平心をなくせないユーザー、どちらにも原因があるんでしょうね。
「どうせやるなら、単純なものを」というメッセージ、なかなか伝わらないのがもどかしいです。市場参加者として、もっと啓蒙の機会があればと思うのですが。

2010年3月26日金曜日

Freakonomicsと「女房を質に入れると」

フリーコノミクスは本だけではなく、ブログ(http://freakonomics.blogs.nytimes.com/)も非常に面白く、劣等生ではあったものの、経済学部出身者としては楽しい話題がよく見られます。
ところで拙著の「女房を質に入れるといくらになるのか?」(出版社のリンクhttp://www.fusosha.co.jp/book/2007/05346.php)も同じコンセプトの本なのですが…。

投資不適格という誘惑

昨日、消費者金融についてコメントしておきながら見落としていたのですが、JCRさんが「消費者金融業界の動向と格付けの視点」というレポートを出してました(http://www.jcr.co.jp/top_cont/report_desc.php?no=09d1171)。文章の内容には特に違和感はないのですが、ふと思ったのは、アイフルのCCCっていう格付け、実際に格付けを使う立場の人がどう思うのかしらって。日本の格付け会社がトリプルCをつけている会社の社債をわざわざ買う投資家は日本には皆無のはずですよね? ということは、仮説としては:(1) 銀行・信金・保険会社・農林系などが〝新規に〟融資をする際の参考(ちなみに、日本人が参加する債権・ローンの流通市場は、投資適格であっても存在しないと私は思っています)にする;または、(2) 既存の社債投資家・債権者(融資をしている金融機関)に対して、サーベイランスの材料を提供する、というふたつかと。ただ、どちらも説得力がないというか、(1)については、格付けを信じている人たちからするとトリプルCの会社には融資だってできないでしょうし、(2)については、そんなこと格付け会社に教えてもらわなくても、ダメポだって分かってますよね、きっと。格付け会社としては、トリプルC格の会社は、倒産しなくてもいい(「だって、絶対倒産するなんて言ってないじゃん」と言える)ですし、倒産してもいい(「だって、単に投機的/投資不適格なだけじゃなくて、トリプルCですよ、トリプルC」と言える)わけで、こうなってくると、ユーザーが格付けにどのような価値を見出すのかと。
昨日も言いましたが、トリプルC格の企業だけでなく、シングルBやダブルCの会社が数多くあれば、トリプルCには意味があるんです。本当の問題は、そのような格付けの会社に見向きもしない投資家(つまり、そんな格付けならないほうがマシと思う人たちが多い)なんでしょうけどね。

2010年3月25日木曜日

ノンバンクのクレジットの見方

ムーディーズが武富士をCaa1からCaa2に格下げしてました。
私は武富士を真剣に見たことはないのですが、銀行系2社については公開情報を結構細かく見たことがあって、結局は資金繰りという結論には変わりないものの:1) 貸倒れ引当金は充分か 2) 過払いに耐えられるか、というカネ貸しを見る上で当然の観点は忘れてはいかんのだろうなぁーと思った記憶があります。銀行系2社については、おおむね貸倒引当金は妥当かなという印象でしたが、過払いについては実は引当金にさほどの余裕はなく、トップライン(カネ貸しなので、利息を払ってくれる債務者から得られる、会計上ではなく現ナマの利息)を生み出している限りは銀行はカネを出し続けてくれるだろうという期待をしない限り、なかなか取れるクレジットではないという感じでした。
と考えてみると、無担で武富士行くのはシンドい、つまり、まさに「投機的」ということであって、ノン・インベストメント・グレードなのは当然でしょう。Caa1とCaa2の差が日本の企業であるのかどうかは別の議論ですが(逆に言うと、レバレッジド・クレジットのスペクトラムが広い米国では意味があるということにもなりますけどね)。

金融機関のクレジットの見方

格付け会社の金融機関格付けを担当する人って大変だろうなぁーって、いつも思います。究極的には、金融機関も他の企業と同様、カネが続いている限り潰れないわけで、カネが続かなくなるのは市場から退場を宣告される(ベアやリーマン)か、預金者がそっぽを向く(ノーザンロック)かなのですが、どちらも、政府が本気で支援すれば発生しないわけです。
なーんてことを、寝る前に今日のニュースのおさらいをと思って格付け会社さん達のホームページを見ていて、S&Pが新生銀とあおぞら銀のクレジット・ウォッチ・ポジティブを取り消したことに気づいてつらつら思いました。
ま、格下げしたわけではないのであまりとやかく言ってもしょうがないのですが、新生は不動産エクスポージャーがでかすぎる上に消費者金融(シンキとアプラス)が不安というところはうなづける一方、あおぞらはリスクも少ないが儲けられもできないだろうという評価で、第三者的には笑っちゃうというか、信用リスクの側面からビジネスモデル(の欠如)を指摘されるということになりました。
プライベート・エクイティが株主だと、どうしても目先の利益も追いたくなるし、ただ、その結果、長期的に株主価値を生み出すような顧客基盤がないがしろになるというのは両行に共通しているのかもしれませんな。

スウェーデン商業銀行と千秋パパ

 日本板硝子のプレスリリース(http://www.nsg.co.jp/press/2010/pdf/0325.pdf)で「スウェーデン商業銀行」っていうのが出てきて、いったいどこのことだか悩んでしまいました。スヴェンスカ・ハンデルスバンケンを日本語で言うとこうなるんですね。
板硝子さんの財務内容は数か月前に真剣に見たことがあって、結局のところ、ピルキントン買収に要した借入が無事に借り換えられるかどうかがキモだということは分かるわけですが、こうやって借換の状況を適時開示する姿勢というのは、デット側の人間にとっても好感が持てますね。
本邦企業向け融資の供給者としてロイズ・バンキング・グループのロイズTSBが出てくるのは非常に珍しいと思いますが、ピルキントンの絡みなんでしょうね。
そういえば、ABNアムロのアムロの語源が「アム」ステルダム・「ロ」ッテルダムだって知っている人って、もう化石なんでしょうかね。

テンキー機能付きUSBタッチパッド

http://www.princeton.co.jp/product/multimedia/ptpsp1.html

「あきばお~」で見つけたこの商品、私はマウス派ですが、それはノートを使わないから? もっと忙しくなってノート持ち運ぶようになったら、テンキーにもなるので便利かもしれませんね。もっとも、当面はiPad待ちになるかもしれませんが…。

2010年3月24日水曜日

ブログ始めました

少し時間ができそうなので、ブログ始めることにしました。これまで、原稿や本という形でしか発信できなかったのですが、金融市場で日々起きていることについての心に移り行くよしなしごとを、徒然なるままに、そこはかとなく書きつくろうと思っています。