2014年8月20日水曜日

低利回りとリスク

日本で個人投資家がEB債に投資をするようになり、機関投資家(プロとは限らない)がクレジット・リンク債とかCDOと買うようになった理由は、単純に言えば他の資産の低利回りです。もちろん、株価が上昇しているときは(正しいかどうかは別として)みな株を買うわけですが、株も上がらない、そして、(株が上がらないからという哲学的な、つまり、全体的な主観的期待リターンの話はともかく)安全資産の利回りも低いときには、みな、すっごく妙なリスクを取りに行くわけです。

本来であれば、国債利回り低下=金融資産の(名目)期待リターンの全体的な低下ですから、見た目の利回りが高い債券(の形を採った複雑な金融商品)の確率的な元本毀損は高まっているだけなのですが、素人はそれには気づかないか、あるいは、確率の高さをなんらかの(誤った)理由で正当化しているわけです。

ここにきて、世界的に国債利回りが低下しており、さらに、ボラティリティが下がっていますから、以前と同じような名目利回りを得ようとすると、なおさら妙なリスクを取る必要があります。確かに、ボラティリティは、市場が判断するリスクの価格ですから、現在の低ボラティリティを誤っていると断言することはできないのですが、それにしてもちょっとねぇーという印象を持っている人は多いのではないかとも思います。

FT紙に、クレジット・デリバティブのリスクが再度広まっていて、リーマン・ショック前よりももしかするとひどい状況かもしれないというのが出ていましたが、そういった文脈でとらえなくてはいけませんね。某国の経済新聞とちがって、業界の提灯持ちになっていないのはさすがです。

2014年8月18日月曜日

リパッケージそのものは悪くないのでは?

WSJ紙に、ポルトガルのエスピリト・サント銀の資金調達に、オフ・ショアのSPCが使われていて、リテール顧客に売られていたというのがスキャンダラスに書かれてますね。

SPCを用いて、無邪気な顧客に、安全でない資産を安全であるかのようにしたというのであれば確かに問題なのですが、それは本質的にはSPCの問題ではないようにも思います。こんなことに絡んだとされる投資銀行は、気の毒な感じも少ししますよね。

2014年8月16日土曜日

基本的な金融知識と企業経営

ビジネス・スクールでは、金融教育が軽視されていて、受講生や実際の経営陣も「金融」というのは主要な問題ではないと思っているという話がFT紙に出ています

日本では、金利スワップについて最高裁が「企業の経営者であれば理解は容易である」などと説示していますが、ということは、日本では金融教育はそうとう進んでいるということなんですかね、欧米と比較すると…

2014年8月15日金曜日

ジャンク債のスプレッド拡大

NYT紙のディール・ブック・コラムで、ジャンク債のスプレッド(米国債との利回り差)が拡大、つまり、計算・理論上の信用度が悪化しているという話が出ています。2か月で80bp拡大というのは、結構でかいですよね。

日本で個人向け(だけではないかもしれませんが)に売られているバンクローン投信では、バンク・ローンはジャンク債よりも安全だとか言われているのかもしれませんが、実際には債務者は同じわけで、ちょっと気になりますね。

2014年8月13日水曜日

ジャンク債とヨーロッパ

ヨーロッパでジャンク債が広まるのは時間がかかったけれども、ここにきて(銀行が引いているというのもあり)市場が活性化しているという話がNYT紙のDealBookコラムに出てました

「自分の発行する社債が『屑』といわれるのは嫌だ」というあたり、日本の状況と似てますよね。だから銀行の力が強いまんまなわけですが。ただ、日本の場合、投資家も含めた予定調和が図られているため、格付け会社がトリプルBという実質ジャンク分類を作っているという説もありますね。

2014年8月12日火曜日

証券会社のリサーチ

確かに、リサーチのコストは間接的に投資家が負担しているんですよね。運用会社が残高で手数料を計算する「ファンド」の場合、リサーチのコストは株式の手数料とか、債券の売買価格の差の形でファンドそのもの、つまり投資家が負担していることになりますが、そこにどれだけのメリットがあるのか確かに不明瞭ですし、さらに、リサーチの内容に色はないので、運用会社の自己勘定(が仮にあればですが)も用いることができますよね。なので、本来であれば、リサーチは運用会社が自ら抱えるべきだし、外部から購入するのであれば、運用会社のバランスシート(でもP+Lでもいいですが)から支払われるべきですね。

という理屈が欧米では広まりつつあるようですが、日本では、情報はタダだと思う人が多いわけで、どうなりますかね。

2014年8月11日月曜日

最高裁判所のホームページから

金利スワップの事件として、H25.3.7とH25.3.26のふたつがあり、どちらも最高裁のホームページに掲載されていたのですが、後者がなぜか消えています…。集民の番号で検索しても出てこなくなっていて、ちょっと不気味

ゴールドマンと三井住友海上

格付け会社がレポートを出しているということなのでじっくり見てみようとは思っているのですが、ゴールドマンと三井住友海上が「フィックスト・インカム・グローバル・ストラクチャード・カバード・オブリゲーションズ」なるものの販売を企図しているとか

コラムの趣旨は、絶対金利も低い、クレジット・スプレッドも縮小しているという理由で、投資家が妙なリスクを取り始めているといういつものやつですが、このGSの案件は面白いかもしれませんね。みたところ、GSのプロップ取引に超過担保を備え、それに三井住友海上が保証、この担保付保証を信じて投資家がどれだけ資金を出すのかという話なんでしょう。すっごい金融危機がこなければよし、そうでなくても三井住友海上もGSも潰れなければまたよしということですよね。トリプルAが付されるかどうかというのが本質的な議論ではないような気はしますが…。このあたり、ストラクチャード・ファイナンス屋としての血が騒ぎます。

2014年8月7日木曜日

デリバティブと銀行の自己解体計画

欧米の大金融機関は、みずからが危機に陥ったときに、金融危機を起こさないような自らの解体・清算の計画を立てておかなくてはいけないのですが、米当局からダメが出たそうです。

WSJ紙の「Heard on the Street」コラムでは、不充分なのはデリバティブで、ISDA上、カウンターパーティの破たんは自動的に解約権が発生、担保の売却もできるのですが、それがまずいということのようです。つまり、米当局は、実際問題として「支払い停止」を強制したのと同じという読みですね。

CNNやBBCを見ていて思うのですが、世界的には、日本ってもうどうでもいい金融市場なんですね。CNNは香港、BBCはシンガポールが拠点で…。

2014年8月6日水曜日

リスクの高い債券を個人投資家に販売するな!

というルールが、イギリスの金融行動監督機構から出されています。

日本では、仕組債はともかく、信用リスクについてはマイカルの件以外、あまり訴訟になっているケースはないようですよね。社債なんか安心な投資なんだから、適合性も問題ないと考えることも多いようです。

私は、個人は社債など(格付けが高かろうが低かろうが)買うべきではないという考えであり(極端すぎる意見だと、消費者系の弁護士の人からあきれられたことがあります)、程度の問題はともかく、まともな国の金融当局が同調してくれたのはうれしいことです。

債券投資はオプションの売りである

金融理論的には、社債投資は、発行会社の(会計上というよりは時価としての)資産の価値を対象としたプット・オプションの売りであるという解釈が可能です。会社が倒産すると、資産を売却して、まず債務に充当されるのが理屈ですが、社債(を含めた負債)が資産の(売却)額を下回っている限り、社債は償還されるからです。

その意味では、格付けが低い(信用度が低い)というのは、オプションでいえばイントリンジック・バリューが大きいと意味になります。また、ボラティリティ(世の中のごたごた度でしょう)が高まればオプションの価値は高くなります。つまり、このような場合、オプションの売りの対価を表す社債の利回りは高くなります。

ということを、ポルトガルの銀行の話で思い出しました。日本でも少しずつ広がり始める新型劣後債とか、もっと言えば、個人向け社債も、程度が異なるだけで、リスクの質は同じなんですよね。