2012年12月30日日曜日

価格は重要事項ではない(H22.3.30最三判・集民233-311)

ちょっと消費者契約法の「不利益事実不告知」を調べる必要があって判例を見ていたのですが、価格の動向については、同法上の重要事項には該当しないという最高裁判所の判例がありました。

不利益事実不告知というのは、要するに、業者(法律上は「事業者」)が個人客(法律上は「消費者」)に対して勧誘をする際、いいことだけを言って悪いことを言わず、かつ、そのいいことだけしか言わなかったことによって普通の人であれば悪いことは存在しないんだと思ってしまうようなときのことであって、消費者契約法上は、それによって、悪いことは存在しないと客の側が思ってしまった場合には契約を取り消せることになっています。

「金の価格は今後上がりそうですよ」と言って勧誘(消費者契約法上の断定的判断の提供は否定されている)した際、下がる可能性について触れなかったのが不利益事実不告知だというのが原告・被上告人の主張なのですが、同法上の重要事項は「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容」「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件」なのだから、価格は含まれないというわけです。

もっとも、上告審では、この消費者契約法上の論点だけについて判断されているわけで、説明義務違反(不法行為・債務不履行)については控訴審で再審議となっていますから、被告側が勝ったというわけでは必ずしもないようですが。

集民ということは、類似の民集判決があるはずなので、もう少し見てみなくては…。

2012年12月27日木曜日

デリバティブの紛争

紛争になっている事例を見て思うのは、個人の仕組み債投資はまだともかく、法人のデリバティブのえげつない奴は、取引前にプロに相談しておけばいいのにということです。ま、勧誘してくる金融機関を利害関係ないプロだと思ってしまうのは素人さんはやむを得ないのでしょうし、それ自体が自己責任の一部を構成しそうですが、それだけではなく、結局、アドバイスに金を払うことが勿体ないんですよね。タダほど高いものはないんですけどね。

2012年12月26日水曜日

引き算デリバティブ

・ 1ドル>95円だったら、1ドル=70円で100万ドルが買える。
・ 1ドル<75円だったら、1ドル=「200円-市場実勢ドル円相場」で200万ドルを買わなくてはならない

という取引を考えてみましょう。後者は若干分かりにくいですが、ようするに、レートを決める日に、ドル円の為替レートが1ドル=70円だったら、200万ドルを1ドル=130円(200円-市場実勢為替レートである70円(1ドルあたり))で買わなくてはならないということです。

こう見ると、ものすごく複雑にも、ものすごく単純にも見えますが、実際はその中間です。まず前者ですが、前者は:

・ 1ドル=95円を行使価格とするドルのコール・オプション100万ドル分の買い
・ 1ドル=95円を行使価格とし、ペイオフ(受け渡し額)を1ドルあたり25円とするバイナリー(デジタル)のコール・オプション100万ドル分の買い

となります。1ドル=100円のとき、前者からは1ドルあたり5円、後者からは1ドルあたり25円、それぞれ手に入るため、経済的効果としては市場実勢よりも1ドルあたり30円利益が出る、つまり、1ドル=70円(=100円-30円)で100万ドルを購入したのと同じ効果となるわけです。

後者については少しだけ複雑なのですが、実は、この取引をやることによる損益を考えれば簡単です。ドルの買い値が「200円-市場実勢為替レート」で、これをそのときの市場実勢為替レートで売却すれば損益が分かるわけです。つまり、「200万ドル×{市場実勢為替レート-(200円-市場実勢為替レート)}」であり、これは、すぐに「200万ドル×2×(市場実勢為替レート-100円)」と書き直せます。つまり、400万ドルを1ドル=100円で購入するのと同じ損益となる取引です。ところが、この式が有効になるのは1ドル<75円のときだけです。つまり、1ドル=75円よりも円高になると、400万ドルを1ドル=100円で買わなくてはならない取引というわけです。ちなみに、この取引は:

・ 1ドル=75円を行使価格とするプット・オプションの売り400万ドル
・ 1ドル=75円を行使価格とし、ペイオフ(受け渡し額)を1ドル=25円とするバイナリー(デジタル)のプット・オプション400万ドル分の売り

となります。

掛け算・割り算デリバティブ

『1ドル=65円×「65円÷市場実勢レート」で10万ドルを買う』というタイプのデリバティブを見かけることがあります。このとき、10万ドルをこの妙な式で買った上で市場の実勢レートですぐに売却すると:
・ 支払い額 10万ドル×65×65÷市場実勢レート
・ 受取り額 10万ドル×市場実勢レート

となるため、その差である、10万ドル×(市場実勢レート - 65^2÷市場実勢レート) が損益となります。

分数にしてみれば分かりますが、( )の中は、「(市場実勢レート^2 - 65^2)÷市場実勢レート」と書いても同じことです。ところで、この前半部分は、因数分解の基本ですから、さらに、「(市場実勢レート+65)(市場実勢レート-65)÷市場実勢レート」と書いても同じことです。

ところで、一般の、つまり、たとえば単純に1ドル=65円で10万ドルを買うという取引の場合、その損益は、「10万ドル×(市場実勢レート-65)」とあらわされます。この不思議な式のデリバティブと並べてみると:

・ 10万ドル×(市場実勢レート-65) ・・・ ①
・ 10万ドル×(市場実勢レート+65)(市場実勢レート-65)÷市場実勢レート ・・・ ②

となります。 ②÷①は「(市場実勢レート+65)÷市場実勢レート」であり、つまり「1+65÷市場実勢レート」です。

なにが言いたいのか? 要するに、冒頭の取引引は、「1+65÷市場実勢レート」倍のレバレッジがかかっている(「1+65÷市場実勢レート」×10万ドル分の取引をしている)のと経済効果は同じということです。ここで、市場実勢レートが1ドル=65円よりも円高になればなるほど、レバレッジは高くなる、つまり、ドルを買っている人に不利になりますし、1ドル=65円よりも円安になればなるほどレバレッジは緩くなる、つまり、ドルを買っている人の有利さは減っていきます。中学校の数学が役に立つ話でした。

中国の格付け会社が米国債を格下げ含みに

中国語(http://www.dagongcredit.com/content/details20_7675.html)・英語(http://en.dagongcredit.com/content/details20_6873.html

基本的には、正しい分析なんでしょうな。現在のシングルAっていう格付けに意味があるかどうかは別ですが…。

2012年12月25日火曜日

デリバティブの喩え話

デリバティブをなかなか理解してもらえないとお悩みの人達は多く、上手な喩え話を考えればそれなりに喜ばれるようです。私もいろいろと考えてはいるものの、なかなか…。

たとえば、金利スワップ、クーポン・スワップ、コモディティ・スワップなど、変動するもの(短期金利、ドル/円の為替レート=1ドルの価格、金属の価格など)と、決まっているもの(≒価格)とを交換するとりひきですが、こんなのはどうでしょう:

『毎週水曜日に、東京ドームのネット裏の席を1席5,000円で確保します。決まっているのは「毎週水曜日」というだけなので、巨人戦があるかもしれないし、アメフトになるかもしれないし、もしかするとドッグ・ショーとかフラワー・ショーといったスポーツと関係ない試合かもしれません。さらに、そもそもなんの催しものもないかもしれません。とにかく、巨人戦であってもなくても5,000円で1席は確保します。』

巨人ファンの人からすると、このような契約にも意味があるかもしれませんよね。ちなみに、1席5,000円というのは「強制」であって、巨人戦だったら1席5,000円で試合が見られるけれども、巨人戦以外でも1席5,000円でチケットを買わなくてはならないという契約です。

うーん、野球はシーズンがあるし、かつ、将来のスケジュールが結構早くから分かっているから、ちょっと違いますかね。というのも、この手のデリバティブの特徴として:

1) 不確実な将来について、(好かれ悪しかれ)確実性を与える
2) 契約は原則として強制である

というのがあるため、変動要因が必要なんですね。ですから、価格に相当するものを「時間」と構成した上で、例えば、上の例を「巨人ファンの人が、神宮球場に、毎週水曜日、午後8時から午後9時までいなくてはならない」とすればいいでしょうか? 相手が巨人であればこれは権利ですが、相手が巨人以外だったり、雨で試合が中止になったりしたらこれは義務になります。さらに、巨人戦以外の場合には、午後6時から午後9時まで3時間いなくてはならないとしたら、これは日本の銀行が得意な「レシオ型」のフォワード契約と同じですよね。また、相手が巨人の場合でも、球場が90%以上埋まったら退出しなくてはいけないとすれば、これはノックアウト条項付ですね。

なんか、もっといい例が考えつかないでしょうか…。

全部取得条項付種類株式の買取価格決定

09年にあったM&A案件で、ありがちな全部取得条項付種類株式を用いていて、少数株主が買取請求をしていたのですが、全部取得の効力が発生してしまって、株主でなくなるのだから、ダメよっていう決定があったんですね(H24.3.28最二決・民集66-5-2344)。

文句言う時は、社債等振替法上の個別株主通知をし、全部取得の価格争うしかないってことなんですかね。