為替デリバティブのADRは旬を過ぎ、これからは訴訟が増加するという話が某週刊誌に出ていたみたいですね。定期的に記事になる話でどこまで現実味があるのかは分かりませんが…。
既に判例が出ているものとの対比では金利スワップと似ている部分があって、単純な「クーポン・スワップ」と金利スワップとは、為替レートと金利という扱っているものは違っても、相場の長期平均水準で有利・不利が決まるという点で同じです。1ドル=75円で毎月10万ドルを5年間買い続けるという契約は、要するに、5年間・60回の為替レートの平均が75円よりも円高か円安かを予想すればいいわけです。素人にそれができるかどうかは別ですし、市場(=プロ)が合理的に予測している理論値とユーザーが契約したレートとの間に差がある場合にはユーザーは平均的には必ず負ける取引をしていることになり、かつ、ユーザーはその事実を知りませんが、勝ち負けの理屈は難しいものではありません。
もっとも、オプションが絡んでくると話は別ですよね。1ドル>70円であれば10万ドル、1ドル<70円であれば30万ドル、それぞれ1ドル=70円で買うことが5年間続くという契約では「平均」が1ドル=70円ではユーザーの負けです。平均から常に1ドルあたり5円だけ円安か円高のレートにしかならない、つまり、1ドル=「平均+5」円か1ドル=「平均-5」円のいずれにしかならないというシナリオを考えると、前者におけるユーザーの利益は10万ドル×「平均-65」円、後者におけるユーザーの損失は30万ドル×「75-平均」です。両者が同じ回数だけ起きるのだとすると、結局、この2つは等しくなるはずですから、平均としては72円50銭である必要があります。言葉の正確な使い方とは異なりますが、このような取引では「損益分岐点」となる為替レートは1ドル=70円と考えるべきではなく、1ドル=72円50銭と考えるべきなのです。この幅が3円のときは、10円のときは…と考えると、ボラティリティがオプションの価値に与える影響もすぐわかり、この種の取引がボラティリティのショート・ポジションであることも理解できるはずです。ちなみに、ノック・アウト(消滅条件)がボラティリティのショートであることも、ちょっと考えれば分かりますよね。
なんてことを考えながら、とりあえずは下級審でしょうけれど、どんな判決が出てくるのかは楽しみにしていたいと思います。 ちなみに、説明義務がどこまであるかという問はケース・バイ・ケースでしかないというのが教科書的な答でしょうから、一般論としては扇情的なコメントはふさわしくないんでしょうね、きっと。
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