2010年4月11日日曜日

実質金利と名目金利

以前から書こう書こうと思って忘れていました。拙著のひとつをご覧になった読者の方のブログで、私が「金利の高い国の通貨は安くなりやすい」と言っておきながら「実質金利の高い国の通貨は強くなりやすい」と同じ本の別の場所で述べていて、これは矛盾だというご指摘をしてらっしゃいました。
この議論は多分にアカデミックで、なかなか難しいのですが、一般的に、なんの条件も付けずに「金利」と言った場合は『名目金利』のことを指しまして、観察できる金利のことです。LIBORやTIBOR、スワップ金利、国債利回り、銀行預金の利率、すべて、観察できますから名目金利です。
名目金利は、通貨の購買力を保つための期待インフレ率の部分と、通貨の融通性の対価である『実質金利』とからなります。
インフレ率が高い国の通貨が安くなりやすいのは購買力平価仮説が正しいとすると理屈の上では正しく、一方、期待インフレ率が高いと名目金利が高くなります。これが「金利の高い国の通貨は安くなりやすい」ことの根拠です。名目金利が高い国は、往々にして期待インフレ率が高くて実質金利は実は低いことがあるので、見た目の金利の高さに踊らされないようにすることも大事ですねというのがメッセージなのです。
一方、実質金利が高いというのは、期待インフレを加味しても、まだおカネが増えることを意味します。インフレ調整後もおカネが増えるのであれば、皆がそちらにおカネを持っていくはずです。先進国間で短期金利の上下の期待によって資金が国境をまたいで移動しますが、そのひとつの理由が、期待インフレ率が変わらないのに名目金利だけが動くことにより、結果として実質金利が上がることがあるからなのです。
と、ここまでの理屈は簡単(引き算だけ)なのですが、厄介なのは、名目金利は「期待」インフレ率と実質金利とからなることで、運用成績が出るときには、インフレ率は期待ではなくて物価上昇は既に終わってしまっているのです。つまり、仮に期待インフレ率が高くても、結果として実際のインフレ率が低ければ、最終的な実質金利(=おカネを消費しないで貯蓄・運用に回した成果としての購買力の上昇)は高くなる可能性があります。
このあたりの議論が理解できないと、インフレ・ターゲットの話とか、もろもろの金融政策の話が一部ぼやけてくるんですね。とは言え、誰かが正解を持っている訳ではないのですが…。

0 件のコメント:

コメントを投稿