2010年4月18日日曜日

日本のクレジット市場

buzzでもさんざん書いたのですが、SECはゴールドマンを民事訴訟の被告として提訴したのではないかと思っています。一定の資料も入手したので、解説記事をここでと思っていたのですが、なかなか他のことをやっていて手が回らず、もう少し時間をかけてじっくり見てみたいと思います。
今回のGSの件で話題になったCDOも直接かどうかはともかく、少なくとも類似の商品は間違いなく日本の投資家にも販売された(=日本の投資家が購入した)はずなのですが、日本のクレジット市場を過去21年間見てきて、「いつかは」と思う変化がなかなか起きずにもどかしく感じることがよくあります。
特に悲しいのは、ジャンク債市場が育たないことです。ご案内のとおり、ジャンク債とは投資適格未満/投機的格付けの債券(主として社債)のことで、80年代後半にドレクセルの…という歴史はともかく、格付け的には、少なくとも定義としては、S&PのBBB-未満(BB+以下)、ムーディーズのBaa3未満(Ba1以下)ということになります。日本では、批判を恐れずに大胆な単純化をすると、R&IのA-未満(BBB+以下)になろうかと思います(JCRさんについてもA-未満/BBB+以下と言いたいところですが、市場に与えるインパクトという意味で、フィッチ同様、今回はちょっと考慮外としておきます)。
で、R&IのトリプルB格の社債が頻繁に取引されているかと言うと、ま、もともと、日本での社債の取引は「アポイントメント・オンリー」などと揶揄されたこともあるぐらい、市場と呼ぶのがはばかられるほどなのですが(そうは言ってもCDSがありますが)、これがR&IのトリプルBになってくるとほとんどないし、取引される利回り水準も、シングルAから突然スプレッドの水準が切りあがります。これは、まさにジャンク債取引の典型でもあるのですが、日本人特有の予定調和的資本主義の中では、ジャンク債は投資適格でない、つまり投資不適格であり、投資不適格な債券がそもそも取引されるのはおかしいので、実質的にはジャンク債であっても、投資適格の債券というセクターの中のクレジットの強くない銘柄群ということになるのでしょう。
それはさておき、では、R&IのトリプルB格の会社が悪い会社なのかというと、これが必ずしもそうではないわけで、そのあたりもジャンク債の発行会社と似ているのですが、多くの会社は利益を上げようと思って業務を行っていますが、往々にして、利益というのは利息をマイナス計上してからでないと計算されませんから、結局、利益を上げるということは利息を払うのと同義に近く、ということは、多くの会社は借金を返そうと思って業務を続けています。多くの会社はツブれないというのが本来の姿なわけです。
ところが、日本的な予定調和の中にいると、トリプルB格の会社自体が少ない(←実質ジャンクであることを皆が知っているので、投資適格のトリプルB格なのに、トリプルB格なら不要という人が多いのかもしれません)ので、結局、トリプルB格の会社は実は本当に危ない会社だけになりかねない危険をはらんでいます。
自己矛盾を起こしかねない議論なのですが、そうは言っても、トリプルB格の会社も財務分析をしてみるとそれなりにいい会社もあります。それは当たり前で、銀行や信金・信組が融資をしている先というのは、往々にして、R&Iが格付けを附与すればきっとダブルBとかシングルBにしかならない(規模が小さくて格付けになじまないことが多い)わけで、金融機関が融資している先が全部潰れていてはたいへんなので、実は潰れない先も多いわけです。
「他人(=格付け会社)は危ないと言っているけれども、自分達の分析能力を以ってすれば十二分に倒産リスクの回避は可能である」と言い切りながら積極的に日本の社債市場に打って出る、そんな人達の出現はいつになるのでしょう。
なお、同じことはストラクチャード・クレジットの世界でも若干言え、分析できないものはやるなという結論は変わりません。ただ、ストラクチャード・クレジットの世界では、ジャンクに手を出す人は実はそれなりに多く、それは(結果としては傲慢な誤解ではありましたが)、分析能力に自信があった現れと言えます(もしくは、格付け会社のダブルBやシングルBを、ストラクチャード・クレジットについては過信した、つまり、「潰れるとは言っていない」ことに過度な依存をしたのかもしれません)。

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