2012年12月9日日曜日

仕組債と期待収益率

 今、5年の国債の利回りは0.2%を若干下回っています。流動性プレミアムの議論を少し脇に置き、かつ、日本の国のデフォルトリスクの議論も少し忘れるとすると(実はこのリスクはあまりないのではないかと個人的には思っていますが)、他の発行体の債券であっても、5年の期待収益率は0.2%に収束するはずです。

 たとえば、期間5年で利回り0.5%の社債があるとしましょう。国債を100万円保有していると5年間の利息総額は1万円ですが、この社債では2万5000円です。であれば、当然社債を買うべきではないかという結論になりますが、この社債の利回りが高いのは、この発行体がデフォルトする確率がゼロではないからです。直観的には、平均的には1万5000円分の元本割れが有りうるから、表面的に2万5000円の利息を支払っていることになるわけです。100万円のうち1万5000円ということは、単純計算では1.5%ですから、同じような債券を67銘柄保有していたら1銘柄はデフォルトするということになります。

 この例の場合、大手の機関投資家であれば実際に67銘柄を保有することが可能ですし、投資信託であっても(実際はともかく理論上は)同じです。ですから、期待リターンと実際のリターンとが一致することは多いでしょう。一方、 個人や中小規模の投資家は数銘柄しか保有していないため、あたれば(つまりデフォルトしなければ)国債よりも高い利回りが得られますが、はずれればゼロになります。

 期待リターンは国債に収束することを分かった上で、敢えて、ゼロになる可能性を知っていながら、投資をしている投資家は多いでしょうか? そうではないような気がします。

 仕組債も同じです。仕組債の期待リターンは、業者の儲けがなければ、つまるところ、国債の利回りに収束します。 目先のクーポンが10%だろうが20%だろうが、元本毀損の確率とその程度とを加味すれば、長期的には、結局は国債と同じだけの利回りしか得られないのです。しかも、業者が利益を上げていますから、実際には、期待リターンは国債を大きく下回ることになるわけです。だからといって仕組債に投資してはいけないということではなく、それを分かった上でないと投資すべきではないということなのでしょう。

 ところで、統計には「中心極限定理」と呼ばれる考えかたがあって、広義の「大数の法則」ですが、これは、試行回数が多いと、実際の確率に収束していくというものです。簡単に言うと、仕組債を何回も何回も買っていれば、今の例で言うと、国債の利回りに収束するということです。つまり、過去に仕組債を買って成功した人というのは、実は、以降何度も繰り返して仕組債を買う「べきではない」という意味です。なぜかというと、頻度が高まると実際が理論に収束する、つまり、損失が必然になっていくからです。

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