仕組債にもデリバティブにも時価がありますが、業者から顧客への見せ方は随分違っているようです。デリバティブの場合、取引直後から巨額なマイナスになるのですが、顧客の側ではなにかを「買った」という感覚が乏しいからでしょう、その金額が金融機関の原材料費との差額であることを知っているユーザーはほとんどいないようです。他方、仕組債も、関与している業者が数者あって、みんなが直接・間接に利益を上げていますから、その分、購入価格と実際の価値とは大きな乖離があり、差額は時価のマイナスに相当しますが、デリバティブの場合と異なり「買った」ということに敏感な投資家の反応を考慮して、業者が仕組債で当初から正確な価格を提示することはまずありません。アメリカではこの点について当局が関心を示していて、仕組債の販売に際して「公正価値を示せ」としていますが、思うに、継続的な表示かマーケット・メイクを義務付けない限り、投資家の側も不感症になり、薬の注意書きのように誰も気にしなくなる危険を孕んでいます。
で、仕組債が対象となっている紛争では、そもそもの投資価値と商品性が見合っていたかを示すことがひとつの戦術としてあるのですが、証券会社が提示する時価は、通常、購入後しばらくの間は購入価格(額面の100%)のままです。これは、証券会社の利益を含め、その証券の本当の価値を示していないのは言わずもがな、市況の変化も反映させないのですから、デリバティブの時価と比較すると、その点でははるかに質が悪いのです。たとえばノックインが組み込まれている仕組債は、少しでもノックインに近づくと(円高やボラティリティ上昇)、まだノックインに遠くても価格は下がりますが、多くの場合、かなりの確度でノックインが見えて来ない限り、仕組債の価格を下げて提示することはないのです。
金融商品関係の法律の構成上、契約締結のための行為にはウソは禁じられてますが、直接勧誘に直結しないところには業法上のしばりはあまりありません。個別の事例にもよるのでしょうが、実際は価格が大きく下がっていたのに、ずっと購入価格のままで残高が表示されていたというのは、業者の側の何らかの害意を示す傍証にはなるにかもしれませんね。
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